フランス・フットボール通信BACK NUMBER
スキャンダルで地に落ちた元“皇帝”。
F・ベッケンバウアーの悲惨な現在。
text by
アレクシス・メヌーゲAlexis Menuge
photograph byAlex Martin/L'Equiope
posted2018/02/27 07:30
世界的な名声を誇ったカイザーの伝説も、今や地に落ちた。ドイツ国内での人気はまったく消えてしまったという。
莫大な額の怪しい金が、彼を取り巻く。
問題の核心となるのは、当初の700万ユーロから670万ユーロに減らされたある晩のレセプションの共同出資額である。スイス当局が疑っているのは、この金はレセプションのために使われたのではなく、ドイツ協会とはかかわりのない負債の支払いに充てられたことを、被疑者たちは知っていたのではないか、ということである。そして、恐らくそれは間違いではない。
またそれとは別に600万スイスフランが、ベッケンバウアーと彼のコンサルタントのひとりが管理する口座からカタールに支払われている。自宅の家宅捜索の後、ドイツとオーストリア当局の共同尋問を受けたベッケンバウアーは、マネーロンダリングと背任行為に手を染めた不誠実な詐欺師と糾弾されたのだった。
暗い雰囲気の家。荒れ放題の庭……。
「この一連の出来事が、彼に甚大な打撃を与えた」とローター・マテウスは言う。
'84年から'90年までベッケンバウアーが監督であったドイツ代表と、'90年代半ばに2度にわたりバイエルンの暫定監督を務めたときも彼のもとでプレーしたマテウスは、最もよき理解者のひとりでもある。
「(スキャンダルに)ずっと悩まされている。彼のおかげでドイツは史上最高のワールドカップを開催することができたのに」
そしてこう付け加えるのだった。
「彼とはときどき会っている。最後に会ったときは、顔色があまり良くなかったけど、それでも笑みを絶やすことはなかったよ」
だが、ザルツブルクにほど近い丘の上にある彼の豪邸の周囲は、どんよりとした空気が立ち込めている。窓のカーテンはすべてひかれ庭は荒れ放題。近所に住む住民のひとりは言う。
「散歩をする姿をこの前見ました。とても大きな心臓の手術を受けたから、公衆の面前に姿を見せなくなるのもよくわかります」
村の外れを散歩していた別の住民は、最近見かけたベッケンバウアーの様子をこう語った。
「顔がむくんでいて、いかにも具合が悪そうでした」