フランス・フットボール通信BACK NUMBER
スキャンダルで地に落ちた元“皇帝”。
F・ベッケンバウアーの悲惨な現在。
posted2018/02/27 07:30
text by
アレクシス・メヌーゲAlexis Menuge
photograph by
Alex Martin/L'Equiope
『フランス・フットボール』誌2月13日発売号は、その晩におこなわれたチャンピオンズリーグ・ラウンド16第1戦、レアル・マドリー対パリ・サンジェルマンを大々的に特集している。
冒頭を飾るのはキリアン・ムバッペとクリスティアーノ・ロナウドを巡る秘話で、他にもチアゴ・モッタのインタビューやフレデリック・エルメル記者のサンティアゴ・ベルナベウスタジアムの思い出話など中身は充実している。
それとは別に興味を引くのが、アレクシス・メヌージュ記者によるフランツ・ベッケンバウアーの近況レポートである。
ドイツだけに限らずヨーロッパ・世界サッカーの象徴でありレジェンドであるベッケンバウアーが、2006年ワールドカップ招致をめぐるスキャンダルでイメージが地に落ち、本人も苦しんでいる。その影響は健康状態にも現れている。これほどショッキングなことがあるだろうか。
ベッケンバウアー、プラティニというふたりのレジェンド――サッカー政治の世界でも選手出身の指導者としてサッカーの未来を託しうるふたりが、いずれもスキャンダルで表舞台から退かねばならなかったのは、決して偶然ではないように筆者には思われる。
「自分から誰かに電話することはない。電話はすべて相手からかかってくるもの」とあるインタビューで語っていたベッケンバウアーが、「契約にサインする前に、私はその内容を確認したことはこれまで一度としてない」と述べたのは、偽らざる彼の本音だろう。同じことはプラティニにも言える。
サッカーを巡る世界の変化と、その結果として現れる新しい真実と正義。
かつて許容されたものは、もはや今日の規範では許されない。
その変化に、レジェンドたちはあまりに無防備でおおらかである。そして時代の変容が、正しい方向に向かっているか否かは誰にも判断できない。
監修:田村修一
久しぶりに公に姿をみせた元“皇帝”。
個人的なドラマと健康への不安、迫りくる訴追、そして地に落ちた人望……。伝説のカイザー(皇帝)、フランツ・ベッケンバウアーは人生の危険な曲がり角を迎えている。
クリスマスを数日後に控えたある日、フランツ・ベッケンバウアーはミュンヘンの中心街でディナーを楽しんでいた。彼が公衆の面前に姿を見せるのは数カ月ぶりのことである。ベッケンバウアー自身が商品化に力を貸した南アフリカ産のワイン、その名も「リベロ No.5」の発売を祝っての食事会だった。
彼の友人でありまたミシュランの星つきレストラン「アム・プラッツル」のシェフでもあるアルフォンス・シューベックが腕によりをかけた料理を堪能しながら、カイザーは妻や近親者たちに囲まれて寛いだ時間を過ごした。
その中のひとり、フェドル・ラドマンは古くからのベッケンバウアーの代理人であり、2006年ワールドカップ招致についてスイス司法当局から追及を受けた際に、不安を分かち合った盟友でもあった。