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井口資仁の名はシカゴで永遠に残る。
反骨の逆転ホームランと、世界一。
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byAFLO
posted2017/07/02 07:00
2005年、シカゴを沸かせた井口も42歳となった。NPB現役最年長野手として、千葉ロッテでラストシーズンを戦っている。
公開トライアウトでレッドソックスに味わされた屈辱。
初戦を落としたレッドソックスの最良のシナリオは、地区シリーズを何とか4戦目以降に持ち込んで、シーズンの最終戦に登板させていたためにシリーズ最初の3試合に投入できなかったエースのカート・シリングの力を借りることである。
試合はレッドソックスが1回に2点を先制、3回にも2点を追加して、着々と「シリング投入→逆転勝ちでリーグ優勝決定シリーズ進出」に向けた試合展開になっていた。
迎えた5回裏、ホワイトソックスの先頭打者で5番の指名打者エベレットが右前打で出塁。6番ロワンドが適時二塁打を放って4-1。8番クリーディーが中前に適時打を放って4-2と2点差に。ここで9番ウリベが放った二ゴロを、グラファニーノがトンネルしてしまい、1死一、三塁となった。1番ポドセドニックは三邪飛で2死一、三塁。ここで打席に入ったのが2番の井口である。
ずっと後に、井口本人とその話をしたことがある。普段の受け答えはとても冷静沈着な男が、きっぱりとこう言った。
「メジャーに来る時、アメリカで公開トライアウトをやったんですけど、レッドソックスのスカウトの自分に対する評価が低くて、『グラファニーノの控えとしてなら獲ってもいいよ』みたいなことを言われた。だから、レッドソックス戦は気持ちも普段より入っていたし、そのグラファニーノのエラーで自分に打席が回ってきて、ここは絶対に打ってやろうと思っていた」
「ざまあみろ」と思う以上に嬉しかった祝福。
熱く燃え滾る心とは正反対に、頭脳は冷静だった。井口はあの時、ウェルズが「絶対に投げてくる」得意の大きなカーブを待っていた。
「試合前にカーブ・マシンで打ち込んで、チームとしても準備はしていた。もちろん、実際のウェルズの球とは違うけど、軌道をイメージに入れておくだけで随分と違う」
カウント1-1からの3球目、そのカーブが外角から真ん中へと入ってきた。
「打った瞬間に入ったと思いましたね。メジャーに来た時の経緯もあったし、正直、『ざまあみろ』とも思いましたよ。でも、そんなことよりベンチに帰ってきて皆が大喜びしていたことの方が嬉しかった。ああ、このチームに来て良かったな、と」