マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
巨人・篠原慎平を救った“二の矢”。
彼が野球の道に戻ってきた価値。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKyodo News
posted2017/05/10 07:00
186cm、97kgの恵まれた体格で、育成指名から3年で支配下契約となった篠原慎平。偉大なる先輩、山口鉄也の後を追いかける。
高校2年生で、彼の高校野球は一度途絶えた。
彼はまだ2年生だった。長身の右腕なのに、しっかり1歩あるいて投げられていた。
1歩あるいて投げる――。
下半身で体重移動がなされているという意味で、時々使っている表現なのだが、当時の篠原慎平投手の印象にぴったりハマった。
今のようなゴッツイ体型じゃなかった。あれで、体重も80キロぐらいだったろうか。野球のユニフォームがよく似合う、スリムな線を持ったしなやかな体型だった。
今よりは強引に腕を振って“速い球”を投げようとしていたが、スピードも140キロ前半に見えたし、スライダーやフォークを武器に変化球のコントロールも悪くない。
何よりいちばん印象に残っているのが、バント処理の上手さ。このサイズなのに、パッと動ける反応の鋭さと機敏なスナップスロー。長身を持て余していない走りも、思わず「速いな……」とつぶやきが発せられるほど。
こりゃあ、来年のセンバツで見られるな……。このまま故障さえなければ、来年のドラフト上位候補と楽しみにしていたら、翌年の愛媛の高校野球になかなか彼の名前が出てこない。
“消息”を確かめることもできないままに、いつの間にか「川之江高・篠原慎平」という名前は日々の喧騒のかなたに消え去ってしまっていた。
そういう選手って、こういう仕事をしていると結構いるものだ。
あれっ、アイツいないな。最近故障でもしたのかな……。で、そのまま、それっきり。
1年生で目だっていた“動けるデブ”の思い出。
思い出したヤツがいる。
指を折って数えてみると、あれは3年前の夏になるのか。
神奈川のある強豪校の4番バッターが、実にいいバッティングをしていた。リストの使い方が柔らかく、インパクトでぐっとリストをしならせて、バットの長さとヘッドの重みを利用した打ち方。左中間へ、右中間へライナーで飛んでいって、そこからさらにグーンと伸びていく。
175cm110kg、右投右打。
その体型でセカンドだったから、びっくりした。さらにそのセカンドが、実に柔軟な身のこなしで打球のコースに入っていって、器用なハンドリングで次々にゴロをさばいてみせるからまた驚いていたら、その“動けるデブ”が実は1年生だというから、ひっくり返ってしまった。