左手有鉤骨の骨折は、スイングの速さゆえ？

　東海大学からドラフト3位で入団し、今年で4年目。学生球界のエースに君臨していた菅野智之（現・巨人）と2年間バッテリーを組んで、彼自身も学生ジャパンのキャリアを積んだ。

　取材で何度かグラウンドにおじゃまするうちに親しくなって、「流しのブルペンキャッチャー」で菅野投手の剛球を受けさせてもらった時には、同じブルペンのすぐ隣りで別の投手のピッチングを受けながら、励ましの声をかけてくれたものだ。

　送りバントだけは上手くなったなぁ、と背中に冗談を飛ばしたら、

「あ、安倍さん」

　振り向くなり、ホッとしたような笑顔が返ってきた。

「今年は出遅れてしまって……」

　そういうと、チラッと左手に目をやった。オフの12月のトレーニングの最中に骨折してしまったのだ。

　左手有鉤骨。手の指の骨の付け根、手のひらの骨の突起部だという。バットスイングした拍子に、その勢いで折れてしまった。

　阪神ドラフト1位の高山俊（外野手・明治大）が昨秋、最後のリーグ戦の途中にやってしまったのも“これ”だ。スイングスピードが飛び抜けて速い選手、握力の抜群に強い選手が発症するという。

「また、一緒にブルペンで受けたいですねぇ」

　昨季のオリックス。104試合に出場した伊藤光がレギュラーマスクを獲得した印象があるが、実はパスボールが多く、守備ワークに不安ありが実情。2番手が16年目の山崎勝己だから、「来年こそオレが！」と張り切ったところでの負傷になった。

　ブルペンで全力投球を捕球できるのがキャンプ後半、全力投球をフルスイングできるのが4月あたり。そんな診断だったそうだ。

「また、一緒にブルペンで受けたいですねぇ。楽しかったなあ、あの時。2人でワアワア言い合って」

　オレのほうがいい音出てるじゃないかー、伏見！

　声だって、オレのほうがいい声出てるじゃねーか、どうなってんだトライ！

　よーし！　ここだ、ここ放ってこい！

　一瞬“あの時”がよみがえって懐かしかったが、ダメ、ダメ、伏見寅威の気持ちが“昔”に戻ろうとしている。

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