ブックソムリエ ~必読!オールタイムベスト~BACK NUMBER
亡命、迫害、監督との絆。娘が綴るスタルヒンの生涯。~ロシアから亡命した無国籍の人間の辛さ~
text by
馬立勝Masaru Madate
photograph bySports Graphic Number
posted2016/03/01 06:00
『ロシアから来たエース 巨人軍300勝投手スタルヒンの栄光と苦悩』ナターシャ・スタルヒン著 PHP文庫(重版未定・長期品切れ Kindle版あり)
「球の速さは、スタ公が沢村より上や。速くて重く打球が飛ばない」。当時63歳の阪神・藤本定義監督の言葉。新米記者の初取材で“速球の沢村栄治伝説”が覆った意外さで今も記憶に残っている。
スタ公こと、ヴィクトル・スタルヒン、プロ野球創成期の大投手だ。シーズン最多勝利42勝、球史初の300勝投手、引退2年後に40歳で事故死…野球殿堂の胸像額にそんな球歴が刻まれている。本書は5歳で父を喪ったスタルヒンの長女ナターシャさんの追慕の書。日本に亡命した白系ロシア人(革命で赤軍に倒された帝政ロシア側=白軍=の人たち)苦難の家族史でもある。さらに球史の暗いページとも言えるだろう。