詳説日本野球研究BACK NUMBER
日本ハムの先発メンバーに異状アリ。
高校卒野手が並ぶ“壮大な実験中”。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/06/15 10:40
5月30日の対中日戦、ライト越えのタイムリー二塁打を放ち、ガッツポーズをする日本ハム・浅間大基。横浜高校からドラ3入団の18歳ルーキーは、6月9日現在、72打席に立ち.279と安定した打率を誇る。
松坂大輔の登場以来、高校卒選手が即戦力に。
メンタルの強さが抜きんでていても「高校卒」というだけでファームに押し込めて飼い殺し状態にする、というのが以前のプロ野球界だった。しかし松坂大輔が出現した'99年以降、ダルビッシュ有、田中将大など即戦力の働きをする高校卒選手が続出し、彼らの爆発的な潜在能力に注目が集まっているが、野手に関してはまだまだ大学、社会人出身の“出来上がった選手”を重用する傾向が強い。それが日本ハムでは常識外れに高校卒が多いのだ。それではファームの試合ではどうだろう。6月7日のゲームを見てみよう。
1番・左翼手 岸里亮佑(花巻東高・20歳)
2番・右翼手 松本剛(帝京高・22歳)
3番・中堅手 石川慎吾(東大阪大柏原高・22歳)
4番・指名代打 鵜久森淳志(済美高・28歳)
5番・三塁手 高濱祐仁(横浜高・19歳)
6番・遊撃手 太田賢吾(川越工高・18歳)
7番・二塁手 森本龍弥(高岡第一高・21歳)
8番・一塁手 佐藤正尭(愛知啓成高・19歳)
9番・捕手 清水優心(九州国際大付高・19歳)
なんと9人全員が高校卒で占められている。
同日の一軍の試合(阪神との交流戦)でも相変わらず、1番西川、2番中島、3番田中、4番中田、5番近藤、6番岡(明治大・24歳)、7番杉谷、8番レアード、9番吉川光夫(広陵高・27歳)というスタメンが顔を揃えている。
つまり、一軍も二軍も日本ハムは高校卒が主力を構成しているということである。こういう球団は日本ハム以外、記憶にない。知り合いのスカウトに「これだけ高校卒が多いと大学生や社会人を獲りづらくありませんか」と言うと、「う~ん、そうですね……、それはちょっとありますね」と笑っていた。
育成選手もFAで獲得した選手もいないが、強い。
高校生も大学生、社会人も同時に指名する2008年の統一ドラフト以降、日本ハムは1、2位の上位で西川('10年2位)、松本('11年2位)、大谷('12年1位)、森本('12年2位)、渡邉('13年1位)、清水('14年2位)と6人の高校生野手を指名している。これはもちろん12球団ナンバーワンで、これに続くのはソフトバンクと巨人の4人である。
日本ハム、ソフトバンク、巨人に共通するのは安定した強さ。その中でも日本ハムは育成選手を保有せず、FAで獲得した選手もいない。ドラフトで獲ってファームで育成する、という工夫と手間をかけて昨年までの過去10年間、優勝4回(日本一1回)、Aクラス7回の安定した強さを持続している。これは育成と(FA戦略などの)補強の両面作戦を採っているソフトバンク、巨人と一線を画す。
日本ハムは高校生の潜在能力の高さに注目して、それを引き出す壮大な実験をしているのだと思っている。6月9日現在、34勝23敗1分けで首位ソフトバンクに1ゲーム差の2位につけている。