詳説日本野球研究BACK NUMBER
藤浪、大谷の才能を伸ばすチームは?
12球団別、高卒投手の一軍起用法。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2012/09/19 10:31
今秋ドラフト最大の目玉である花巻東の大谷翔平。最速160キロの本格派右腕として大成が期待されるが、打者としても高校通算56本塁打を誇り、投打ともに超高校級という前代未聞の逸材である。
巨人には「1位大谷、2位菅野」の両獲りを期待!?
●巨人 ~かつてとはうって変わった育成路線は本物か~
かつて、「他球団の4番打者、エースを札束で頬を叩いて獲りまくる」と言われた巨人が、現在は「育成の巨人」の異名を取り、その異名通り今季、宮國椋丞(20歳)、笠原将生(21歳)、高木京介(23歳)、田原誠次(23歳)、小山雄輝(23歳)の若手投手を一軍の戦力にした。大学卒2年目の澤村拓一(24歳)が若手というより中堅の雰囲気を漂わせている状況を見ると、この育成路線は本物だなと思う。
'08年 | 笠原将生(福岡工大城東) | 3試合 | 11回 | 1勝0敗 |
'10年 | 宮國椋丞(糸満) | 15試合 | 87回 | 5勝2敗 |
合計 | 2人 | 18試合 | 98回 | 6勝2敗 |
今年のドラフト1位指名は2年越しの“恋人”、菅野智之(東海大)で決定的だが、'80年代までの巨人なら「1位大谷、2位菅野」の両獲りを目論んだかもしれない、と頭をかすめることがある。それをやれば囂々たる非難を浴びることは確実だが、私は「すごい」と溜息をつきそうな気がする。そういう巨人を久しぶりに見たい気もする。
●西武 ~高い育成能力を備えるが、高卒選手の育成は苦手!?~
現在のスターティングメンバーを見れば西武が球界屈指と言っていい育成能力を備えていることがわかる。中島裕之(30歳)、中村剛也(29歳)、栗山巧(29歳)、片岡易之(29歳)、秋山翔吾(24歳)、浅村栄斗(21歳)という盤石のレギュラー陣は、アマチュア時代、必ずしも高い評価を得ていたわけではない。しかし、粗っぽさを容認しながら早い段階で起用することで、小さくまとまらない野武士的な選手が数多く出来上がった。
ところがこれは野手陣に限ったことで、若手投手はなかなか大きく育ってこない。期待値の高い大石達也(23歳)は早大時代の悪癖をいまだに引きずり、'06年の高校生ドラフト1巡指名の木村文紀(24歳)はつい最近、野手に転向してしまった。
'09年 | 菊池雄星(花巻東) | 20試合 | 117.2回 | 7勝2敗1セーブ |
合計 | 1人 | 20試合 | 117.2回 | 7勝2敗1セーブ |
過去4年に限定すれば、獲得した高校卒投手で一軍の成績が残っているのは菊池だけだ。選手名鑑を見るとそもそも高校卒投手が少ないことに気づく。生え抜きだけで見ると菊池、涌井秀章、中崎雄太、武隈祥太、田中靖洋、前川恭兵しかいない(木村は野手)。育成のノウハウがないとは考えづらいが、少し心配になる。
●ヤクルト ~高卒投手の活躍は12球団ナンバーワン~
12球団の中で過去4年間、高校卒投手が一番数多く勝ち星を挙げているのがヤクルトだ。1人の選手が活躍しているわけではない。4人の選手が一軍の戦力なっている。
'08年 | 赤川克紀(宮崎商) | 49試合 | 233回 | 12勝12敗 |
八木亮祐(享栄) | 2試合 | 8回 | 0勝0敗 | |
日高亮(日本文理大付) | 76試合 | 57回1/3 | 4勝2敗 | |
'09年 | 平井諒(帝京第五) | 22試合 | 19回 | 2勝2敗1セーブ |
合計 | 4人 | 149試合 | 317回1/3 | 18勝16敗1セーブ |
4人のうち左腕が3人いるというのは偶然のように見えるが、'07年の大学・社会人ドラフトでも1巡加藤幹典、4巡岡本秀寛('10年限りで引退)と2人の左腕を指名しているので、増やそうという意図のもとで指名しているのがわかる。
また起用法を見れば日高、平井は最初からリリーフを当て込んで指名しているのがわかるし、実際そのように起用している。高校卒だからと言って漠然と指名しているのではなく、はっきりした役割分担を考えて指名しているので起用が早い。ドラフトしか補強ルートがないから真剣に考えて、戦略の限りを尽くす。ヤクルトのドラフトからはそういう深い意図が感じられる。