日本代表、2014年ブラジルへBACK NUMBER
ジーコ率いるイラクの奇策にも動じず。
ザックジャパンの“想定外”な対応力。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byToshiya Kondo
posted2012/09/12 12:50
前田遼一のゴールで喜びを爆発させる選手たち。遠藤、駒野、長谷部ら、ジーコ日本代表監督時代の“教え子”たちが、かつての指揮官に自らの成長を見せつけた一戦となった。
チームの狙い通りだったスローインからの先制点。
不気味なムードが漂っていた。U-23代表を多く呼び、「今のこのチームで(プレーを)合わせたことがない」と試合前日にぼやいていたジーコだが、“嘘でしょ?”と突っ込みを入れたくなるほどイラクの面々は規律がとれていた。本田をケアする役のボランチが疲れてくると、もう一方のボランチにうまくマークを引き渡していた。
日本は、イラクに中央の守備を固められ、センターバックの吉田麻也、伊野波雅彦がフリーでボールを持っても、中盤の選手がうまくボールを引き出せない。だがそんなもどかしい展開ながらも、日本に焦りの色はなかった。細かいミスはあったが、時間の経過とともにペースを引き戻していった。
そして、前半25分、イラクの一瞬の隙をついてゴールが生まれる。駒野のスローインから岡崎慎司が裏に抜け出し、左足のクロスに前田遼一がヘディングで合わせた。これまでずっと練習してきたサインプレーではあるが、クロスに対してイラクのマークがルーズになることは事前のスカウティングどおりだった。ゆえにチャンスがあればクロスを狙おうとしていた。ジーコは「サイドからのスローインを警戒していたが、あの場面では別のプレーを想定してしまっていた。凡ミスで失点したのが残念でならない」と唇をかんだが、相手の裏をかいた日本が一枚上手であった。
“ベタマーク”を逆に利用してスペースを作った本田。
先制点を挙げて以降はどっしりと構えて戦った印象だ。
長友佑都が、香川真司に代わって急きょ先発となった清武弘嗣との連係から再三再四、左サイドを突破。個々の能力差で徐々にイラクを圧迫していくようになる。時折ヒヤリとさせられるカウンターを受けたものの、後半に入ると完全にゲームを支配するようになった。
「センターバックの2人には、ボールを持ったときに距離を取ってプレーして、出来るだけ早くサイドに展開してくれと言った」
アルベルト・ザッケローニの指示でセンターバックがパスを散らしながら押し上げてはサイドを攻略していく。本田も自身のマークを引き連れてスペースをつくり、そこに前田たちを入らせようとした。3人への“ベタマーク”を逆に利用して、スペースに入ってくる清武がアクセントのあるいい攻撃を演出していた。後半25分には遠藤、清武とつないで左サイドを駆け上がる長友から本田への絶好のクロスが渡っている。サイド攻略はイラクから反撃する力を吸い取っていった。