スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
「お前はベンチ要員」とモウリーニョ。
行き場なきカカの孤独な戦いは続く。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byAFLO
posted2012/09/06 10:30
サンティアゴ・ベルナベウのベンチに座るカカ(写真右)。かつてのバロンドーラ―は再び輝けるのか。
「カカが残るなら大歓迎」と指揮官は言ったが……。
残留決定の2日後。ホームにグラナダを迎えたリーグ戦でカカはスーペルコパを含め公式戦4試合ぶりにベンチ入りを果たしたが、結局ウォーミングアップもすることなく試合終了の笛を聞くことになった。
モウリーニョは先日、「もしカカが残るなら大歓迎。彼の能力を最大限引き出せるよう努める」と言っていたが、この試合はそれが「残留すれば出場時間を保障する」という意味ではないことをはっきりと示した。
しかもこの日は数日前に加入したばかりのルカ・モドリッチがエジルに代わりトップ下で先発している。また2列目の左にはC・ロナウドが不動、右はアンヘル・ディマリアとホセ・カジェホンが併用されている現状、カカが構想外から一転してポジションを掴むには努力だけでなく運も必要だろう。
そのカカが先日、久々に口を開いた。
苦悩の日々が続く中、いまだマドリーでの成功を諦めきれないカカ。
「実際に移籍を試みたことは一度もないよ。でもクラブの重荷にはなりたくない。自分が出て行かなかったのは具体的なオファーがなかったからだ。僕だって自分自身に問いかけている。よりプレー時間が得られるクラブへ行く方が良いんじゃないかってね。答えはイエスであり、出ていく心構えは今もできている」
自身が今季どこでプレーするのかも分からぬまま、ピッチどころかベンチにも座れない。自身が置かれた状況について複雑な心境を明かしたカカは、しかしまだマドリーでの成功を諦めきれていないようだ。苦悩の日々が続く中、彼は午後の全体練習に加えて午前中にも個人トレーニングを行い、コンディションの向上に努めてきたのである。
「少しずつ人々の信頼を失ってきたけど、希望を捨ててはいない」
「膝をケガする前、自分には独自の特徴があった。でも以前はできたことが今はできない。手術を経て、別の選手になってしまったようなものさ。常にそうだったように、今は再び決定的な選手になれるよう日々戦っている。少しずつ人々の信頼を失ってきたけど、自分は希望を捨ててはいない。今はコンディションがすごく良いんだ。何せ最後にケガをしたのは昨年10月のことだからね」
度重なるケガにより全盛期のキレを失った彼は、もはや「ミランのカカ」に戻ることはおろか、「マドリーのカカ」として輝くことすらできないかもしれない。それでも4月に30歳を迎えた彼は、今も失われた自身のイメージを再び取り戻すべく、孤独な戦いを続けている。