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青学大・黒田朝日の衝撃で思い出す…「走る前から白旗」「あれは“神”」箱根駅伝5区で伝説の“16人抜き”柏原竜二の異次元「神に抜かれた男たち」の追憶
text by

生島淳Jun Ikushima
photograph byShigeki Yamamoto
posted2026/01/18 06:02
大学4年間、山上りの5区を走り、山中で実に16人ものランナーを抜いた東洋大の柏原竜二。ライバルが見た“神”の背中はどんなものだったのか
ところが、早川はまたも驚かされることになる。柏原のペースにまったくついていけなかったのだ。
「自重したとか、あえて離れたわけじゃありません。陸上ではひとりで走るよりも、ふたりで走った方がはるかに楽ですからね。単純につけなかったんですよ。トラックだったら、留学生に抜かれても50mや100mは後ろにつけます。ところが、上りの柏原さんについていくことは不可能でした。留学生どころの話じゃなかったですね」
そして早川は実感をこめ、こう言った。
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「あれは、『神』でした」
離されたものの、早川はその後も淡々と上り続け、1時間20分27秒というタイムで区間5位と好走した。初めての山上りは決して苦行ばかりというわけではなかった。
「いまだに国道1号線の最高点に到達し、そこから見た美しい景色を忘れることができません。頭がおかしくなりそうなほど、延々と上り続けてきて、やっと頂上まで来たという感動に加えて、眼下に広がる景色に圧倒されました。一瞬とはいえ柏原さんに勝負を挑めた楽しさと、あの景色が僕の箱根の思い出です」
早川の笑顔は、今も印象深い。抜かれてなお、走ることを楽しんでいたからだろう。
柏原の「独走劇」だった4年目
そして2012年、4年生になった柏原は先頭でたすきを受けたため、誰ひとり抜く相手がいなかった。箱根の山へのひとり旅。単独走ながら記録は1時間16分39秒の圧倒的な区間新。こうして「山の神」の物語は完結した。
柏原が4年間で抜いた相手は16人にのぼる。私が話を聞いた3人は30歳を超え、それぞれの道を歩んでいる。
早大を卒業した三輪はサントリーに勤務し、37歳となった今もマラソンに挑戦している。
「あの時、柏原君に抜かれたことに感謝しています。もし、あのまま優勝していたら、会社員になってから陸上とは縁遠い生活を送っていたに違いありません。自分としては『フルマラソン、80歳でサブ3』が今後の目標です。たぶん、80歳まで走れたら、柏原君に勝てると思って(笑)」

