2009年、箱根駅伝5区。先頭を走る早稲田大学の三輪真之は、箱根山の最高点を過ぎ、いったん下りに入ったあたりで周囲の異変を感じていた。
沿道のファンのボルテージが上がってきたのだ。みんな、「柏原!」「カッシー!」と叫んでいる。
まさか。東洋大とは小田原中継所で5分近くの差があったじゃないか。それでも、追いついてきたのか? すると、運営管理車に乗る監督の渡辺康幸の声も緊迫の度合いを増していた。
「来てる! 来てる! 柏原が来てるぞ!」
来てるといわれても、どうしようもない。思ったように体が動かないのだ。走り始めて5kmほどの箱根湯本で暑さを感じたため、アームウォーマーを脱ぎ捨てていた。ところが上りが本格化したあと、寒気が三輪を侵食し、体が冷え始めていた。思うように腕が振れず体が動かない。下りが終わって、もう一度上り坂にかかる。すると――。
「自分の横に、ふわーっと人が現れました」
三輪の横に並んだのは、東洋大の1年生、柏原竜二だった。三輪は述懐する。
「康幸さんから声がかかっても、後ろを振り返ることはなかったので、柏原君が本当に来ているかどうか分かりませんでした。気配を感じて横を見たら、突然並ばれたので本当にびっくりしました。そこからいったん離され始めたんですが、『このまま終わってしまったら、一生言われ続ける』と思って、必死に前を追いかけました」
三輪は1年生の時に10区を走り、9位でたすきを受けたが13位となり、早稲田はシード権を逃してしまった。そして前年の'08年には9区で首位を走行したが駒澤に逆転を許し、総合優勝を逸してしまった。このまま引き下がるわけにはいかない。
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