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「始まりはネイマール切りだ」メッシもエムバペも去ったのにCL制覇“スター依存脱却”がPSG名将の凄みだった…フランス名門誌編集長ズバリ
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田村修一Shuichi Tamura
photograph byJean Catuffe/Getty Images
posted2025/11/30 17:01
2023年夏、東京で再開した当時PSGのネイマールと、インテル監督のルイス・エンリケ。しかし1年後、2人が共闘することはなかった
「あれだけ選手を欠きながら、自分たちのプレーでバルセロナを凌駕した。前線からのプレスも変わらず、どの選手も役割を全うした。
ルイス・エンリケはまずグループを作り、自分の思い描くプレーを植えつけた。誰がプレーをしても同じことができるスタイルで、選手も似たようなクオリティを持つ者を揃えた。つまり、トゥヘルやアンチェロッティとは真逆のアプローチでチームを構築した。彼以前の監督は着任時点で、すでに集められたスターのチームが出来上がっていた。その部分が変わり、ルイス・エンリケがすべての権限を持つようになった。デンベレですら、彼の意向には逆らえない」
――彼が赴任する1年前からエムバペはレアル・マドリーへの移籍を希望しており、ルイス・エンリケはいい時期に監督に就任したといえるのでしょうか。
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「今から振り返れば、いい時期に着任したといえるが、ネイマール放出は彼が来てからだし、彼主導で選手も獲得したが、エムバペが去るときにやって来たのは最良のタイミングとはいえない。メッシもネイマールもいなくなり、MNMのすべてがチームを離れた。彼らの存在は、決して無意味ではない。偉大な選手であり、彼らとともにタイトルを獲ることも十分に可能だった。
ルイス・エンリケがやって来たのは、PSGが政策を転換したときだった。その方向転換と彼はうまく噛み合った。クラブ首脳の政策に合致したという意味において、彼はいい時期にやって来たといえる。
自分のやり方を首脳が認めないなら、彼はPSGに来なかったかも知れない。それだけ確固とした自らの理念を彼は持っていた。彼のやりたいこととクラブの希望が違っていたら……。それでも仕事は簡単ではなかった。着任当時は、まだスター選手たちが残っていたからだ」
ルイス・エンリケは時間も手段も与えられた
――今日まで、彼と同じようにチームを構築した監督は誰もいません。
「PSGの歴史を振り返れば、その通りかもしれない。監督が望むチームを構築する時間も手段もなかった。まずは選手ありき、監督はその次というのが実態だった。
だがルイス・エンリケの場合は、監督が望む選手を獲得する手段をクラブが提供する。チーム作りも監督に任せた。PSGの伝統的なスタイルは、選手が役割と責任を担い、監督がそれをサポートして勝利を目指すものだった。だからクラブ方針と監督の意向の間に、強い結びつきがあるわけではなかった。過去にはCL獲得や決勝に進んだ経験のある偉大な監督を招聘した。その結果、2019-20シーズンは決勝に、20-21年シーズンも準決勝まで進んだが、CL優勝にまでは届かなかった。クラブを買収したQSIは、容易に監督の首を挿げ替えたが、彼らもまた成功のためには監督を我慢強く使い続けねばならないことを学んだ。

