「なんで？」「こんなはずじゃなかった」東京世界陸上“感動の抱擁”までの山本有真の波乱の日々…出場権を懸けたレースで「まさかの失速」 

「金栗で日本人1位の自己ベスト、セイコーも日本人トップの自己ベスト、アジア選手権も3位とプラン通りに進んでいました。自分でもここまでしっかりと走れるとは思っていなかったので、怖いくらい順調でした」

　順調に行き過ぎると、逆に不安を覚える選手も多い。

「名城大学時代、駅伝でずっと優勝しているなかで、監督に『今年も勝てるだろう、と過信してしまうと足元をすくわれるよ』と、言われてきました。順調な時こそ慎重に、油断しないように。それは、個人競技でも大事にしています。アジア選手権まで調子が良くても『日本選手権も余裕っしょ』とは思っていなかったです」

「こんなはずじゃなかった」日本選手権

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　日本選手権の5000mは、世陸を賭けた熱いレースになった。

　田中希実、廣中璃梨佳、さらに水本佳菜、加世田梨花、細田あい……と、日本の女子陸上界のトップランナーが集結していたのだ。

「自分としては、一番いい練習をして、一番調子がいい状態で来られたので、すごく楽しみでした。田中さんや廣中さんに喰らいついていこう、なんなら追い抜いてやろうぐらいの強い気持ちで臨むことができたんです」

　だが、レースは思わぬ展開を見せた。

　スタートから廣中が前に出て、そのうしろに田中が張り付いた。山本は800mまでそのふたりの背後にいたが、そこから徐々に離され、1000mでは田中、廣中、伊澤菜々花に10mほどの差をつけられた。必死に追うも、差が縮まらない。

「なんで？」「こんなはずじゃなかった」

　そんなことが頭を駆け巡っていた。3500mでいったん、田中と廣中に追いついたが、残り3周でロングスパートをかけた田中に、どんどん差を広げられた。後続にも抜かれ、まさかの7位に終わった。

　自信が過信になると、痛い目にあう。そのことを深く気に留めていた山本だが、日本選手権で改めて、好調時に陥る落とし穴の怖さを思い知った——。

〈全3回の1回目／2回目につづく〉

#2に続く

「私、引っ張ります」「えっ、いいの？」世界陸上前夜に山本有真が田中希実にかけた言葉のワケ「自己犠牲で買って出たわけじゃないんです」

#3

「田中希実さんに使命を与えられたから」山本有真“世界陸上で志願のペースメーカー”の真実…レース後「また田中さんに救われた」言葉とは

#2

「私、引っ張ります」「えっ、いいの？」世界陸上前夜に山本有真が田中希実にかけた言葉のワケ「自己犠牲で買って出たわけじゃないんです」

#1

「なんで？」「こんなはずじゃなかった」東京世界陸上“感動の抱擁”までの山本有真の波乱の日々…出場権を懸けたレースで「まさかの失速」