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「なんで?」「こんなはずじゃなかった」東京世界陸上“感動の抱擁”までの山本有真の波乱の日々…出場権を懸けたレースで「まさかの失速」
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佐藤俊Shun Sato
photograph byNanae Suzuki
posted2025/11/13 06:02
東京世界陸上女子5000m予選、先頭で引っ張った山本がレース後に田中希実と熱く抱き合ったわけとは? そこに至る苦悩の日々を本人が明かした
前に出て加速すると、田中たちがいる第2集団を少しずつ置いていった。一時は後続を10m以上離して、独走状態に入った。時々、競技場のオーロラヴィジョンで後続との差を確認しながらも大観衆の声援を受けて、山本は前に誰もいないきれいなトラックを走り続けた。
「誰も来ないので、びっくりですよ(苦笑)。自分に向けているのかどうかわからないですけど、五輪の時の歓声って、自分の息の音が聞こえないぐらいすごいんです。しかも目の前に見える景色が誰も人がいないので、それがすごくキラキラしていて……。
夢のなかで走っている感じと同じで、トラックに思い切り足をつけて走っている感覚がまったくなかったんです。自分の自己ベストのために走っているつもりでしたが、この時はこの1歩1歩が貴重な経験だから、この時間を大切にしたいなと思っていました」
自己ベストには届かなかったが
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3300mまで山本はレースを引っ張った。
その後は、多くに抜かれていき、最終的には自己ベスト(15分16秒71)に届かず、15分43秒67で16位に終わった。ただ、レース後の山本の表情には、ひとつ爪痕を残せたような清々しさが感じられた。
「自己ベストを出せなかった悔しさはあったんですが、この1年前のブダペストの世界陸上では、ただうしろにくっついてズルズルとタレてしまって何もできなかったんです。それよりは、先頭で3000m過ぎまで走れたことに成長を感じました。
ただ、後半の2000mは、ブダペストの時と同じように、抜かれてもついていけなかったので、あぁやっぱり一緒か、変わってないなと思ったりもしました。でも、チャレンジしての結果だったので後悔はなく、東京の世界陸上に向けてもっと頑張ってやろうと思えたのが大きかったです」

