「なんで？」「こんなはずじゃなかった」東京世界陸上“感動の抱擁”までの山本有真の波乱の日々…出場権を懸けたレースで「まさかの失速」

　世界陸上東京大会、女子5000mの予選。スタートしてすぐに山本有真（積水化学）は先頭に立った。

　最初は、パリ五輪で見せた独走劇の再現かと思ったが、今回はうしろにピタリと田中希実がついていた。これは、偶然か。まさか、国際舞台でペースメーカーはないだろう。だが、周を追うごとに、その疑念が深まり、やがて確信になった。

　しかし、なぜ、山本は世界と戦う舞台で田中をアシストしたのだろうか。

パリ五輪での独走はなんだったのか

パリ五輪でトップを独走する山本　©Getty Images

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　1年前、山本はパリ五輪の舞台に立っていた。

　5000mの予選、田中と同じ組で出走した。レースが始まると、おそらくテレビを見ていた多くのファンがハッと息をのんだに違いない。山本が先頭に立ち、単独でぶっ飛ばしていた。

「パリ五輪は、とにかく自己ベストの更新が第1の目標でした。そこに予選通過がついてきたらいいなって思っていたので、スローペースにはしたくなかったんです。具体的なペース設定はしていなかったのですが、それでも自己ベストを出すには、1周（400m）を72、73秒で押して行こうと思っていました」

　レース前に監督と「1周目、スローだと感じたら前に出て72秒で引っ張ってみて、全体を流していこう。その流れのなかでキロ3分ちょっとのペースで進んでくれるのが理想的だ」という話をしていた。そのため、山本は指示通り前に出た。

「もう思い切って行っちゃおう」

「ペースが遅いので、2周だけ早くペースを作ろうと思って前に出たら、誰もついてこなかったんです。大逃げするプランはなかったですし、誰もついてこないのでちょっと焦ったんですが、先頭に出たからには自己ベストを更新したいという気持ちがあったので、もう思い切って行っちゃおうとそのまま走りました」

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