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「田中希実さんに使命を与えられたから」山本有真“世界陸上で志願のペースメーカー”の真実…レース後「また田中さんに救われた」言葉とは
posted2025/11/13 06:04
東京世界陸上女子5000m予選、山本有真が先頭に立つ。ペースメーカーを買って出た真意、そして田中希実との熱い思いとは? 本人が語りつくした
text by

佐藤俊Shun Sato
photograph by
Nanae Suzuki
東京世界陸上での、誰も予想しなかった大胆な走り。山本有真は自身の決断をどう振り返るのか。盟友であり目標である田中希実、そして自身の将来と陸上界への思いまでを熱く語った。〈NumberWebインタビュー全3回の3回目/はじめから読む〉
世界陸上東京大会、5000m予選1組がスタートした。
驚きの声と大声援
山本有真がスッと一番前に出ると、プレスルームでは「パリ五輪の再現か」と、驚きの声が上がった。国立競技場の満員の観客からは、それこそ陸上競技では聞いたことがないような大声援が、その大胆な走りに送られた。
山本は、走りながら電光掲示板で集団の様子をうかがった。
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「パリ五輪では、私が先頭に出た時、誰もついてこなかったんです。でも、今回はみんな、田中(希実)さんをマークしているので、一緒についてくるだろうなと思っていました。どのくらいの人がついてくるのか、それをモニターで確認していました」
1000mのタイムが2分57秒28、2000mは5分59秒90だった。
「プラン通りでした。世界陸上は時計をつけて走れないので、手の甲に“1周72秒”とかタイムを書いていたんです。アップ会場でも400mを走って、タイムの感覚を体に染み込ませていました。ここでオーバーペースになると田中さんにも自分にもよくないし、プラン通りに行かないと焦るので、6周半を終えるまでタイムを確認しながら走っていました」
仕事を完遂した山本
6周半を迎えると、田中がグッと前に出て少しギアを上げた。その勢いに吸い寄せられるように、後続でまるで寝ているように走っていた選手たちが田中につづいた。前に視線をやると、田中が余裕を持ってスパートし、グイグイとスピードを上げていくのが見えた。
山本は、与えられた仕事を完璧にやり切った。


