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「なんで?」「こんなはずじゃなかった」東京世界陸上“感動の抱擁”までの山本有真の波乱の日々…出場権を懸けたレースで「まさかの失速」
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佐藤俊Shun Sato
photograph byNanae Suzuki
posted2025/11/13 06:02
東京世界陸上女子5000m予選、先頭で引っ張った山本がレース後に田中希実と熱く抱き合ったわけとは? そこに至る苦悩の日々を本人が明かした
初の世界大会の経験
山本がパリ五輪で思い切った走りができたのは、世界陸上ブダペスト大会での経験が大きかった。ブダペストの1年前(2022年)のオレゴン大会は、大学の夏合宿中にテレビで観戦していた。遠い世界の舞台のように感じ、ただ憧れながら応援していた。
だが、そのわずか1年後、自らが出場する機会を得た。狙っていた大会ではなく、もしかしたら行けるかもしれない、というなかで出場が決まり、気持ちの準備ができていないままスタートラインに立ったという。
「日本代表になれたのは嬉しかったんですけど、初めての世界大会で、速く走らないといけない、田中希実さんや廣中璃梨佳さんと同じぐらい結果を残さないと、何か言われるんじゃないかと思っていたんです。当時の写真を見てもすごく肩が上がっていて、楽しむというよりは走れなかったらどうしようとか、そういう怖さの方が大きかったです」
大会で成長した精神面、そして競技力も
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レースは序盤から遅れ、トップから1分以上引き離される16分05秒57の20位に終わった。大会後、悔しさと情けなさを抱えたが、周囲の人たちの言葉を素直に受け入れることができた。
「大会後、落ち込んでいたのですが、いろんな人に『代表を勝ち取ったのは自分だから、もっと自信を持って走ってもよかったね』とか『周りの人の眼を意識して走るんじゃなく、自分が楽しまないとダメでしょう』と言われたんです。
そうだなぁ、自分が楽しまないといけないという気持ちになって、ブダペストからパリ五輪までは、その気持ちを大切に本気で五輪に出ることを目指してやってきました。その気持ちがあったので、パリ五輪であそこまで思い切ったレースができたのかなと思います」
気持ちに余裕が生まれ、ワクワクしながらレースに出場できるようになった。そうした精神面での成長を、ブダペストからパリ五輪の間の1年で感じることができた。
そしてパリ五輪が終わり、今年に入って山本は、競技面で大きな成長を見せた。

