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「なんで?」「こんなはずじゃなかった」東京世界陸上“感動の抱擁”までの山本有真の波乱の日々…出場権を懸けたレースで「まさかの失速」 

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佐藤俊

佐藤俊Shun Sato

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photograph byNanae Suzuki

posted2025/11/13 06:02

「なんで?」「こんなはずじゃなかった」東京世界陸上“感動の抱擁”までの山本有真の波乱の日々…出場権を懸けたレースで「まさかの失速」<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

東京世界陸上女子5000m予選、先頭で引っ張った山本がレース後に田中希実と熱く抱き合ったわけとは? そこに至る苦悩の日々を本人が明かした

久々の自己ベスト更新

 4月の金栗記念の5000mでは約2年半ぶりとなる自己ベスト(15分12秒97)をマークした。この記録が生まれた背景には、動き出しの早さがあった。

「五輪を終えてメンタルの持ち方はだいぶ落ち着いたのですが、まだ世界で戦うには実力が足りないと思っていました。(野口英盛)監督と話をして、いつもならシーズンインをして徐々に調子を上げていくんですが、1月から距離を踏んでベース作りをしたんです。

 同様に、いつもは4月からスピード練習を入れるんですが、3月からひとりだけ別メニューで始めて、3000mを8分台で走れるようになったんです。その流れで自己ベストを出せたので、プラン通りに進んでいった感がありました」

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 1月と2月は、通常時よりも100キロほど距離を増やして、月間700キロ以上を走った。体力作りの進捗状況を確認するために、2月に全日本実業団の10キロのロードレースに出場した。後半の5キロをどれだけ上げられるかがテーマだったが、32分33秒で1位になり、手応えを感じた。

 スピード練習では、閾値走のメニューを増やした。3月に8分台を出したことはそれまで一度もなかったが、自分がここまで走れるんだ、という自信を持って4月からのトラックシーズンに突入できた。

東京大会へ、好調が続いていたが……

 金栗記念での自己ベストには、感慨深いものがあった。

「前の記録は大学4年(名城大)の国体だったんですが、この時はたまたま出ちゃったという感じだったんです。それから実業団に入り、大学の時よりも練習しているはずなのに、自己ベストが出ないのは、あの時に出したタイムに合う実力がまだないのかなと思っていました。

 でもここで更新できて、やってきたことに間違いはなかった、って。大学の時の自己ベストよりもすごくいい感覚で走れたので、成長が見えて、すごく安心しました(笑)」

 5月のセイコーグランプリの3000mでは8分50秒64の自己ベストで日本人トップの3位。さらにアジア選手権の5000mでは15分16秒86で3位となり、銅メダルを獲得した。山本は、世界陸上東京大会に向けて、好調を維持していた。

【次ページ】 「こんなはずじゃなかった」日本選手権

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