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高校野球から“消えた名将”…あの甲子園“奇跡の2連覇”監督は今「勝てなくなった名門大学を再建」胴上げ拒否事件も…「噓だろ? やるわけねえだろ?」
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中村計Kei Nakamura
photograph byKei Nakamura
posted2025/09/15 11:10
香田誉士史(54歳)。かつて駒大苫小牧を率いて夏の甲子園「2.9連覇」を成し遂げた。昨年から母校・駒大の監督に
「去年の11月ぐらいだったかな、このまま行けば強くなるよ、って思った瞬間があったんだよ。いい練習してる、いい顔になってきた、って。選手たちに、そういう話もした。シーズン中盤から、それが少しずつ形になってきたな、というのはあった。だんだん選手とのギャップがなくなってきたというか。まだまだなんだけど、試合の帰り道、車の中で、よくなってきたなー、というのはあったんだよ」
もつれがちな入れ替え戦も1部6位の日大を相手に連勝。リーグ戦から通じ実に8連勝で1部昇格を果たした。参謀役の林が言う。
「僕は選手時代から通じて8回、入れ替え戦を経験してるんです。選手時代に1回、コーチになってから7回。何が起こるかわからないのが入れ替え戦なんですけど、今回がいちばん楽でしたね。向こうの力が落ちていたというのもありますけど、うちもそれだけ力がついたんだと思います」
「は?」「噓だろ? やるわけねえだろ?」
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試合後、カメラマンが選手らにしきりに香田の胴上げをリクエストした。しかし、香田は目をむいた。
「は?」
それでも、なおしつこくリクエストを繰り返す報道陣に主将の出村は肝を冷やしていたという。
「監督、もう、ほんとにピリついてたんで。記者も『そんなこと言わずに』って、何回も何回も言うんですよ。僕らは監督の性格をわかってるんで、もうやめてくださいって思ってたんですけど」
香田はこう憤慨する。
「いや、びっくりしたよ。嘘だろ? って。やるわけねえだろ、って。1部の6位に勝っただけだよ。そこを目指してるわけじゃないんだから。そんなことしてたら、絶対、また叩き落とされるに決まってるじゃない」
駒大苫小牧時代の香田は勝てば勝つほど表情が硬くなったものだ。そんな香田の口癖は「優勝した瞬間から、負けの要素が忍び込んでくる」だった。
香田のそんな性癖も選手らはすでに熟知していた。
「短命だよ、こういう指導者は」
今の香田は昔のように夜、飲み歩くこともほとんどなくなった。練習を終えると翌日の練習メニューを考え、選手らに話す内容をメモした。
「そういうの、ぜんぜん苦じゃない。むしろ、楽しいんだよ。でも、カッコ悪かったな。いきなり2部落ちして。OBとかもさ、なんだ、香田っていう、ちょっと有名なのが来たのにこんなもんかみたいにがっかりしたと思うよ。だから、そこは絶対、やり返さないといけない。俺らは天下の駒大なんだっていう思いもあるしね。ただ、あのとき(駒大苫小牧時代)と同じじゃ、あそこには行けないと思ってるから。何がいちばんいいのか。そこは常に考えながら。選手との信頼関係も今のままでは、まだダメだと思うし」



