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甲子園の風BACK NUMBER
「大社高校、今年は出てないのか…」島根“ほぼ出雲市出身の公立校”が早稲田実業に番狂わせ→ベスト8…旋風から1年、大社の今は? 現地記者が密着
text by

井上幸太Kota Inoue
photograph byHideki Sugiyama
posted2025/08/07 06:00
昨夏の甲子園でベスト8に導いた大社・石飛文太監督
レギュラーほぼ入れ替え…今年は?
勝負の年と言われ、それに違わぬ、いや、それ以上の見事な結果を残したのが前チームだった。それに対し、2025年のチームで昨年から主力を張っていたのは、二塁手の安井貫太のみ。早稲田実との3回戦で代打出場し、三塁線への「神バント」を決めた安松大希ら、甲子園で起用された選手は数名いたものの、レギュラーは総入れ替えに等しかった。戦力ダウンは明らかで、県内の高校野球関係者からも「夏連覇は難しいだろう」と目されていた。
ただ、いつの時代も有望な中学球児の心をつかむのは、甲子園出場という事実である。昨年の躍進を見て、大社に憧れを抱いた選手は多いはずで、事実、昨夏の甲子園後には、ある広島の有力私立校の監督が、「ウチにほぼ決まっていた地元の選手が、『大社に行きたい』と言い出して大変だったんですよ」とぼやいてもいた。
「連覇は難しくとも、次なる『勝負の年』で、また甲子園に出場すればいいじゃないか」。多くの人々がそう思っていただろうし、誤解を恐れずに言えば、大社の一部OBからもそれに近い空気を感じたこともあった。だが、石飛は違った。
連覇を狙った石飛監督…結果は?
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選手として、コーチとして、そして監督として。石飛は甲子園出場を逃し続けた32年間の多くを当事者の立場で過ごした。大社のOBであり、現在チームを預かる立場として、多くの選手、指導者が涙した32年間を「苦痛な時間」と称する。
勝てないことで生まれた現場とOB会の軋轢、校内での野球部の立ち位置など、歴代の現場の指導者や選手をがんじがらめにしていた、一つひとつの課題を2020年秋の監督就任以降に解消し、「選手たちが純粋に目の前の試合を戦える」(石飛)環境を整えた。さながら、いくつもの糸が複雑に絡み合ってできた塊を、結び目を探しながら、一本一本ほどいていく作業である。
石飛にとって、今夏の甲子園出場をみすみす逃すことは、せっかくほどいた32年分の糸に、次の32年につながりかねない結び目を付けるのと同義だった。
だが、連覇を期して臨んだ夏は、険しい道のりだった。

