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亀田家と和解、大阪・西成で再起…興行師・金平桂一郎が抱く新たな野望「中央アジアからボクサーを輸入する」“井上尚弥”というボーナスタイムへの危機感
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栗田シメイShimei Kurita
photograph byNumberWeb
posted2025/08/04 11:03
興行師としてボクシングの未来について語った金平桂一郎。今年11月で60歳になる
協栄ジムの会長を離れ、「何のため、誰のために苦しんだ20年間だったのか」と今でもふと我に返る時もある。だが、全てを失った絶望の中、金平を援助し、復帰のために奔走した外の世界の人間がいたことも事実だ。長年の支援者の一人は、私にこんなことを話していた。
「お坊っちゃんではあるし、危なっかしい部分もある。だけどボクシングの知識も豊富で、実は競技に対しての熱が凄い。根が純粋な人間だから、何かね、ほっとけないのよ」
亀田和毅との縁でボクシング界に復帰し、今ではボクサーの発掘という原点に最も力を入れるため世界を飛び回ろうとしている。金平にその意義を問うと、色褪せることがない原体験を明かすのだった。
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「モハメド・アリの試合をラスベガスで観て、その光景がずっと脳裏から消えないんです。ヒルトンホテルの地下駐車場を特設リングにして、シルベスター・スタローンやエディ・マーフィがリングサイドにいる。そんな豪華さのなか、タオルに穴を開けてそこに首を通しただけというシンプルなアリの入場シーンは鮮明に覚えています。体に塗ったワセリンが汗で飛び散り、それが光に反射する様子は、この世のものとは思えないほど美しかった。私の人生で、あの時ほど感動した出来事はない。アリはどこまでも本物でした。結局ね、ボクシングが好き。シンプルだけど、改めてこの年になり思うのはそれだけなんですよ」
還暦を間近にして西成での生活を選び、今後は中央アジアの小国に拠点を移し、若手ボクサーの発掘に勤しむのは並大抵のことではないだろう。おそらく世間に映るより、そして金平自身の認識よりも、ボクシングという美しく、獰猛な殴り合いの螺旋から抜け出せずにいるのだ。
その純たる想いが、あえて今、金平という興行師の軌跡を記そうと思った、源泉でもある。〈全4回〉

