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寺地拳四朗vsオラスクアガはなぜ心震える激闘になったのか?「映像を見て気がついたんですけど…」加藤トレーナーが恐れた“名伯楽の手腕”
posted2023/04/11 17:02
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Hiroaki Yamaguchi
ライトフライ級2団体統一王者の寺地拳四朗(BMB)が4月8日、有明アリーナの『Prime Video Presents Live Boxing』でWBA&WBC王座の防衛に成功した。キックボクシングからボクシングに転向した那須川天心(帝拳)のデビュー戦に注目が集まるビッグイベントで、メインイベンターの役目をしっかりと果たしたことは称賛に値する。挑戦者のアンソニー・オラスクアガ(米)としのぎを削った激闘を、寺地が全幅の信頼を寄せる加藤健太トレーナーの視線から振り返りたい。
3団体統一戦が消滅…急きょオラスクアガが対戦相手に
寺地は当初、WBO王者のジョナサン・ゴンサレス(プエルトリコ)と3団体統一戦が組まれていたが、ゴンサレスがマイコプラズマ肺炎を患って試合を棄権。ゴングまで2週間を切って白羽の矢が立ったのが、韓国での試合を控えていたオラスクアガだった。
たとえ対戦相手が代わっても、世界戦そのものが中止になるよりはいい。寺地はそう口にしたものの、目標とする4団体統一にリーチをかける3団体統一戦がただの防衛戦に“格下げ”になったのだから、その心中は察するにあまりある。さらにピンチヒッターのオラスクアガは将来を嘱望されるチャンピオン候補とはいえ、5戦5勝3KOという戦績は世界タイトルマッチの挑戦者としていかにも頼りない。寺地が「(試合がキャンセルとなり)2、3日はショックだった」とモチベーションを落とすのも無理はなかった。
メンタル面以外にも不安要素はあった。ゴンサレスはサウスポーの技巧派で、寺地はこの2カ月、サウスポー対策に没頭していた。オラスクアガはオーソドックスのハードヒッターでタイプがまったく違う。寺地は「今までの積み重ねがあるから相手が右でも左でも対応できる」と世界タイトルマッチ12戦のキャリアを強調したが、「足をすくわれるのはこんなとき」とささやく声も少なくなかったのである。
トレーナーの不安「相手がルディの選手というのは…」
加藤トレーナーには寺地とはまた別の思いがあった。「相手がルディの選手というのは正直イヤでした」。オラスクアガを手塩に掛けて育てたトレーナー、ルディ・エルナンデス氏に不気味なものを感じていたのだ。