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英国人識者ズバリ「サッカー日本代表選手を安く買える時代は終わった」三笘薫ブライトンに田中碧リーズ…英名門は“19億円→68億円”の錬金術
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ジェームズ・ティペットJames Tippett
photograph byNaoki Morita/AFLO
posted2025/08/09 17:01
三笘薫や田中碧ら英国を主戦場とする日本人プレーヤーが増えたが、クラブ側から見る「獲得の背景」とは
これまでの調査によると、2部リーグと3部リーグ、3部リーグと4部リーグといったように、リーグ・ピラミッドの下層に向かうほどこの傾向が強くなり、実力差が接近しやすくなる。
下位リーグの選手のほうが“のびしろ”可能性は大きい
しかもリーグ・ピラミッドの下位にいる選手の方が、伸びしろは大きい傾向にある。例えば若い短距離ランナーが2人いたとしよう。1人は最先端のトレーニング施設で、トップクラスのコーチから指導を受けてきた選手で、100メートルを10.5秒で走ることができる。もう1人は貧しい国の出身で、もっぱら独学で練習を積むことにより10.8秒までタイムを伸ばしている。
いずれかの選手に時間と強化費を投資する場合、あなたはどちらを選ぶだろうか? おそらく10.8秒で走る、経験の浅いランナーではないだろうか。確かに粗削りながらも、エリートコースを歩んできた選手よりも、潜在能力が高いと考えられるからだ。
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サッカー選手も然り。現時点での能力が同じなら、下位リーグの選手の方が上位リーグでキャリアを重ねてきた選手よりも、より成長できる可能性が大きい。イングランドのサッカー界には、四つのプロリーグの下に無数のノンリーグ(セミアマ)が存在するが、そこにはダイヤの原石がひしめいている。事実、ジェイミー・バーディー、クリス・スモーリング、ジャロッド・ボーウェン、マイケル・アントニオ、チャーリー・オースティンなどを見ても、ノンリーグにもトップリーグで活躍できる選手が数多くいることがうかがえる。
そもそもチームや選手は、実力通りに分布しているわけではない。
19世紀に形作られたリーグシステムのヒエラルキーに当てはまらないケースが必ずあるし、実際の状況ははるかに流動的だ。
J1は不当に過小評価…英名門の格安獲得計画
一般的な知名度や評価が高くないリーグに着目し、緻密なデータ分析に基づいて、豊かな才能の持ち主を格安で獲得する。このアプローチを実践している例は他にもある。
2021年にセルティックの監督に就任したアンジェ・ポステコグルーは、日本サッカーのトップリーグであるJ1リーグに関する知識と経験を活用。スコットランドで指揮を執り始めてから最初の18か月間に、6人もの日本人選手(古橋亨梧、前田大然、旗手怜央、井手口陽介、岩田智輝、小林友希)と契約を結んだ。
彼はJ1がヨーロッパの多くのトップリーグに匹敵するレベルを誇り、選手たちも即戦力として十分に通用することを熟知していた。にもかかわらず、不当に過小評価されている状況を利用したのである。
しかもポステコグルーが型破りの選手獲得を実施したのは、2022年のワールドカップ本大会で日本がドイツとスペインを撃破し、クロアチアにPK戦で惜敗する前である。さらに2022/23シーズンには、フォワードの古橋が27ゴールを挙げてスコットランドリーグの得点王に輝き、世界のトップクラブから注目を集めた。
セルティックがJ1出身の6選手に費やした移籍金総額は約1000万ポンド(約19億6000万円)だったが、信頼できる分析モデルによれば、彼らの市場価値は執筆時点でおよそ3500万ポンド(約68億6000万円)に達するという。
プレミアリーグや欧州各国リーグに所属する選手たちの活躍も含めて、日本人選手を安く獲得できる時代は終わったと考えるべきだろう。〈第1回からつづく〉

