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「中日の酷使で潰されたのでは?」29歳で引退“消えたスーパールーキー”上原晃の答えは…「星野さんに恨みはない」「やっと諦められたね」55歳の告白
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松永多佳倫Takarin Matsunaga
photograph byNumber Web
posted2025/05/04 11:06
55歳になった上原晃。現在は東海学園大学の硬式野球部でコーチを務めている
「中日の酷使で潰されたのでは?」上原晃の答えは…
最後に、あらためて聞いておきたいことがあった。デビュー当時の“酷使”によって潰されたという思いは本当にないのか、と。
星野仙一の監督就任後、中日は86年ドラフト1位の近藤真一をはじめ、87年ドラフト3位の上原晃、89年ドラフト1位の与田剛、90年ドラフト5位の森田幸一と、多くの投手を1年目から積極的に起用し、その結果“短命”に終わらせている。特に高卒の近藤と上原に関しては、プロのレベルでの多投に耐えうる体がまだできていなかったのではないか、という疑念がファンの間では根深く残っている。
上原は特に逡巡するふうでもなく、「本音で答えますよ」と静かに言った。
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「潰されたとは思っていない。投げさせてもらえるのはとても嬉しいことだし、あくまでも自己管理の問題。昔はロングリリーフが頻繁にあって、決まった状態で投げられないからブルペンで準備する時間が長い。つまり何回も肩を作らなきゃならないので、かなり負担が重かったんです。でも、あの当時はそれが普通だった。だから、星野さんはじめ首脳陣に対しても何の感情も持ってないよ」
今回インタビューをするうえで、星野監督に対する本当の感情や、「潰された」と同等の言葉をどこか欲していた部分がある。だが、どんなに揺さぶりをかけても上原は一貫して「潰されてはいない。自分の力不足だった」と冷静に否定した。メディア相手に本心を隠しているというわけではない。個人的な関係性のなかで尋ねても、その答えは一貫していた。
「でも、ここ数年でやっと諦められたね」
何をですか。思わず、食い気味に問いかけてしまった。
「野球を、ですよ。ずっと160kmを投げて、メジャーのマウンドに立つ夢を見ていたから。何度も言うようだけど肩肘はなんともないんだからね」
恨みはない。だが、現役への未練はずっと残っていた。どれだけ整体師の仕事に打ち込んでいても、あるいは指導者として野球に携わっていても、数年前までは「ありえたかもしれない未来」を夢に見ることがあったという。甲子園で青春を燃やし、高卒1年目にプロ野球のマウンドで鮮烈な印象を残した沖縄の星は、本当の意味で現役を引退できていなかった。
どんな人生でも踏ん切りをつけなければいけないときはやってくる。上原の場合、指導者として評価され、東海学園大学のコーチに招かれたときが、そのタイミングだったのかもしれない。
夢のなかで投げた160km。今、上原晃は学生たちと共に汗を流しながら、スーパールーキーだったあの頃とは違う理想を追いかけている。

