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メッシもネイマールもエムバペも放出で“超高額スター不在”PSGがCL制覇を狙える「完璧なチーム」に覚醒のナゼ…“黄金期バルサ”との共通点
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井川洋一Yoichi Igawa
photograph byAurelien Meunier - PSG/Getty Images
posted2025/04/29 17:04
CLベスト4に進んだPSG。メッシもネイマールもエムバペもいなくなったチームが今「完璧なチーム」になれた理由とは?
22歳のブラッドリー・バルコラか19歳のデジレ・ドゥエ──名前の意味は“欲望”と“天賦の才”──というフランス産の俊英に、冬にナポリから加入してすぐさまフィットした24歳のジョージア代表クバラツヘリア、そしてついに特大の才能を完全開花させた27歳のフランス代表ウスマヌ・デンベレが並ぶ前線だ。
少年時代から天才と謳われてきたデンベレは20歳の時に、推定総額1億4500万ユーロでバルセロナに引き抜かれたものの、精神的に未熟なままで、6シーズンにわたってポテンシャルを宿したままだった。
昨季にPSGに加入し、2年目の今季も練習に遅刻する悪癖が治らず、CLグループフェーズのアーセナル戦ではメンバーから外された。バイエルン戦では20分間に2枚の警告を受けて退場処分となり、指揮官から「ひどいミステイクだ」と言われ、続く国内リーグの2試合ではベンチスタートに。
問題児デンベレが“偽9番”として覚醒中
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しかしその間に改心したのか、先発復帰後は主に“偽9番”として八面六臂の活躍を披露。これまでの1シーズン最高得点が14だった選手が、今季はすでに32ゴールを記録している。CLの7得点は、すべてバイエルン戦後に挙げたものだ。ルイス・エンリケ監督は言う。
「デンベレは他の誰とも異なる選手だ。私たちは彼のことをずっと信じてきた」
リーグ・アンのライバルクラブ、モンペリエのジャン=ルイス・ガセット監督に言わせると、ルイス・エンリケ監督がデンベレを中央に配したことこそ、「今世紀最高のアイデア」となる。「そこにはきっと素晴らしいコミュニケーションがあるはずだ」とも称えた。
デクラン・ライスの衝撃的なFK2発──それまでの公式戦で彼は直接FKを決めたことがなかった──などで、レアル・マドリーを沈めたアーセナルとの準決勝を、世界中のフットボールファンが楽しみにしている。どちらもCL準優勝を1度だけ経験しており、この大会に懸ける想いは強い。
前述した通り、グループフェーズではアーセナルがホームで2-0の勝利を収めているが、今回はホーム&アウェーの勝負となる。PSGのアドバンテージを見出すなら、今大会ですでにイングランド勢を3つ(シティ、リバプール、ヴィラ)倒していることだろうか。
じつは“超高額選手が皆無”になって強いという事実
最後に、興味深い指標をひとつ。世界最大の移籍情報サイト『トランスファーマルクト』の選手市場価値ランキングで、22位以内にPSGの選手はひとりもいない。今季CL4強では、PSGだけだ。つまりスーパースターが最も少ないチームと言っていいはずだ。
メッシやネイマール、エムバペがいるチームなら、今のような激しいハイプレスは不可能だったはず。
スーパースターが去った後にチームが成功する事例はいくつかあるが、日本人に身近なところでは、バルセロナ化を掲げてイニエスタを招聘するも、彼がいなくなった後にリーグ連覇を果たしたヴィッセル神戸が挙げられる。PSGが悲願の欧州制覇を果たせば、スケールの大きなケースとなる。
アーセナルのホームで行われるCL準決勝第1戦は、日本時間4月30日早朝4時にキックオフを迎える。現在の真のトップチーム同士のヒリヒリするような攻防が期待できそうだ。

