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ブランの謝罪にたまらず退室…「ホントにソーリーじゃねーよ」男子バレー“失意の天才リベロ”小川智大の目を覚ました“予想外の出来事”とは?
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byTakuya Kaneko/JMPA
posted2024/10/10 11:05
山本智大と小川智大という世界最高峰のリベロが2人もいたことは、ブラン監督を大いに悩ませた
日本代表で戦う最後の試合となった準々決勝イタリア戦。敗れたあと、本来ならば降りることのできないコートへ、現地の日本人ボランティアの尽力もあり、全員が入ることができた。律儀にシューズを脱いで、笑顔で仲間の元へ、真っ先に山本のところへ駆け寄る小川の姿があった。
「僕は単純に、みんなすげー、トモさんすげーな、って。見ていて本当に楽しかったから、欲を言えばもっと楽しんでほしかった、というぐらいで。ほんとにお疲れ、っていう気持ちしかなかったので涙は出ませんでした」
周囲の思いは違う。小川の笑顔に山本は涙し、関田誠大は言った。
「ごめんな、小川」
その時のことを振り返りながら、小川が言う。
「ごめんじゃないですよね。めっちゃよかったよ、って僕は本心で思っていた。みんな、本当にいいプレーを出して最後まで戦っていましたから」
「だからまず、ジェイテクトで優勝したい」
パリを終え、再びロスへの4年が始まる。東京からパリまでの期間とは異なり、次の五輪に向けて本当に気持ちが向けられているかと言えば、まだそこまではたどり着いていない。
「今まではパリのことだけ考えてきたから、オリンピックに向けて1年、1年、何をするかを考えてチャレンジしてきたんです。もちろん、これからも一人の選手として、毎日やるべきことは同じ。でも、それがロス五輪に向かうかと言えばわからない。目指さない選択肢はないのかもしれないですけど、まだ、ここから先は長いので。やってきたことは間違いじゃないと言い切れるからこそ、今は目の前のことを丁寧にやりたい。だからまず、SVリーグ。ジェイテクト(STINGS愛知)で優勝したいです」
世界一のリベロが2人いる。そう言われるたび、誇らしくもある一方で、悔しくもあった。
「どっちが出ても強いけど、誰だって、“俺が出たほうが強い”って思っていますから」
笑顔の奥に、闘志を秘める。一本の精度にこだわりながら、決して妥協しない。これまでも、この先も変わらない。
一歩ずつ、一球ずつ、丁寧に。大好きな、嘘のつけないバレーボールと真摯に向き合い続けていくだけだ。
〈全4回/第1回からつづく〉