小川の前を、同じホテルに宿泊していたアメリカ代表の選手たちが談笑しながら通り過ぎる。フィリピン最後の夜を楽しもうと実に賑やかな様子だった。視線をスマートフォンの画面へ戻そうとしたとき、そのうちの一人から、鈍い音が聞こえた。

　信じられない、と笑いながら小川がその瞬間を振り返る。

「目の前でオナラしたんですよ。ブッ、ってやった後、『ソーリー』って。何だよ、自由すぎるだろ、と思ったし、いやいや今日、マジ災難だわ、って。目の前でオナラされても感情が複雑すぎて笑えないし、ホントに『ソーリーじゃねーよ』って思いました（笑）」

　失意を打ち消す、まさかの放屁。まさに災難ではあったが、部屋に戻った時の話のネタにもなった。山内曰く「普通の顔で戻ってきた」その夜、もう小川が泣くことはなかった。

笑い話を交えながら、当時の心境を振り返った小川智大　©︎Yuko Tanaka

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盟友クレクから届いた長文メッセージ

　ただ、昨シーズンまでの4年間にわたってウルフドッグス名古屋で共にプレーしたポーランド代表・主将のバルトシュ・クレクからのメッセージには熱いものが込み上げた。

　おそらくパリが最後の五輪になる。日本を去る時にそう告げたクレクと、小川は約束した。

「パリで戦おう」

　だが、その約束は叶えられない。メンバーから落選したことを告げ「ごめん」と謝りの文章を送ると、クレクから長文の返事が届いた。すべての意味を理解するために、翻訳機能を使って1文字ずつ丁寧に読み進める。優しさと愛情に、何度も涙腺が刺激された。

ポーランド代表としてパリ五輪のコートに立ったバトルシュ・クレク　©︎JIJI PRESS

「まず大前提として『お前はいいやつだ』と。そしてここまで努力してきたことも消えないし、オリンピックに出られようと、出られなかろうと、バレーボールは終わらない。だから『自分に誇りを持ってほしい』と書いてあって。あの時は本当にヤバくて、スプレー式の化粧水をずっと顔にかけながら、ごまかしました」

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