どれほどの時間と熱量を費やしてきたか。小川の努力を知るのは、クレクや同じポジションで共に戦ってきた山本智大だけではない。パリを目指して共に戦ってきた選手やスタッフ、全員だ。だからこそ、南部正司強化委員長からも「いろんな気持ちがあるのはわかっているから、無理にパリまで同行しなくてもいい」と気遣われた。

　だが、小川は即答した。

「パリは僕の夢だったので、最後まで同行します」

　偽りない、心からの言葉だった。

「4年後のロスに向けてとか、そういうのは全然なかった。この先を目指す、目指さないに関わらず、何があってもパリには行くと決めていたので、僕の中では自然な選択でした」

着用するウェアもリュックも違う

　フィリピンからポーランドへ渡り、ネーションズリーグのファイナルを最後まで戦い、銀メダルを獲得した。帰国後のわずかな休息を経て、オリンピックに向けて渡欧する。直前のポーランド遠征までは同じ宿舎、練習場所で生活してきたが、パリに入れば着用するウェアやリュックは自分とエバデダン・ラリーだけが違う。日本を出国する前の記念撮影時も、ユニフォーム姿の12名とリザーブメンバーの富田がフラッシュに包まれる中、小川とエバデダンが所在なさそうにする姿も見た。

パリ五輪に同行したラリー・エバデダン、小川智大、富田将馬（写真はエバデダンのInstagramより）

「ああいう時だけは悔しいですよね。こういうところなんだな、って」

　涼しい表情でやり過ごしながらも、何度も何度も、悔しさを噛みしめてきた。そして最後まで、たとえパリのコートに立てずとも日本代表として共に戦った。

　だから、最後に重なった偶然は、きっと神様の仕業だと合点がいく。

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