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ブランの謝罪にたまらず退室…「ホントにソーリーじゃねーよ」男子バレー“失意の天才リベロ”小川智大の目を覚ました“予想外の出来事”とは?
posted2024/10/10 11:05
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph by
Takuya Kaneko/JMPA
悔しい思いを味わったのは、選ばれた12名の選手だけではない。「世界一のリベロ」と称されながらも、悲願のオリンピック出場を逃した小川智大(28歳/ジェイテクトSTINGS愛知)。なぜパリに残ったのか、なぜ最後のコートで涙を見せなかったのか。SVリーグ開幕直前、本人がすべてを明かした。【NumberWebノンフィクション全4回の最終回/小川智大の前編、富田将馬編、エバデダン・ラリー編も公開中】
泣くな、と自分に言い聞かせても涙が溢れた。
パリ五輪に出場する12名がミーティングの場で発表された6月23日の夜、小川智大は静かに悔しさを噛みしめた。どう声をかけるのが正解なのか。誰もわからない。
最初に小川に声をかけたのは、フィリップ・ブラン監督だった。
経験豊富な名将も「最も嫌な仕事だ」と本音を漏らしたのが、選手選考だった。15名から12名に絞り込む。監督としての苦悩を押し殺し、何度も何度も、小川に言った。
「ソーリー、トモ、ソーリー」
泣きそうな顔で訴えるブランを見ながら、涙を拭い、小川も必死で応えた。
「大丈夫、大丈夫だから」
ブランだけでなく、その場にいる誰もが自分を気遣っていることをわかっていた。だからあえてその場は足早に立ち去った。部屋に帰れば同部屋の山内晶大に気を遣わせるだろう。少し一人になって頭と心を整理したかった。小川はそのままエレベーターで1階まで降り、ホテルのロビーにあるソファーに座った。
何を考えるでも、何をするでもなく、ぼんやりとスマートフォンをいじる。
「落ちたんだな。パリ、出られないんだな」
さまざまな感情と向き合いながら、どれぐらい時間が過ぎた頃か。平静を取り戻させたのは、なんとも意外な出来事だった。