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「ここが限界なんじゃないか」冨安健洋がアーセナルで感じた“分厚い壁”…チームメイトへの劣等感「普通に見て、俺よりあいつの方がいいなと」
text by
豊福晋Shin Toyofuku
photograph byHideki Sugiyama
posted2024/07/25 11:01
プレミアリーグのアーセナルでプレーする日本代表DFの冨安健洋。自身のキャリアで感じた「壁」について明かした
「分かりやすくいうと、限界を感じました。 ここが限界なんじゃないかと思うこともありましたし、それはシント=トロイデンやボローニャでは感じなかったもの。実際にピッチの上でプレーしてるときも、もちろん難しいのは難しいんですけど、外から見てるとより『俺にこれができるのか』と......。そして実際に自分がピッチに戻ったときに、そのイメージが先行しちゃって。 復帰後で焦りもある中で、難しさはかなりありましたね」
迎えた2シーズン目も、冨安にとっては納得できる1年ではなかった。プレーに自信を失い、悩んでいた時期、アーセナルのミケル・アルテタ監督のもとに直接話をしにいったこともある。2023年の夏のことだ。
「ローン移籍して出場機会をしっかり得て、コンスタントにプレーすることでまずは自信を取り戻すことが必要なんじゃないか――。監督には正直にそんな話もしました。完全に自信を失ったっていうことも伝えて。その時は、チームの状況的に移籍が難しかったということはもちろんありますけど、監督からは『シーズンを通して使いたいから残ってくれ』と言われて。ただ、 監督というのは選手に対してそういう風に言わないといけない立場なので、その言葉はそれほど大きく捉えてはいないんです」
冨安には物事を客観的に眺める、冷静な視点がある。生まれ持った性格なのだろう、昔から世界をフラットに見てきた。アーセナルの日常でもそうだ。自分よりいいと思う選手がいれば、素直にそう受け入れる。
「自分より他の選手の方が普通にいいじゃんって思うことも全然あるんです。そこまで自信を持っていないというか、自分に噓をついてまで、自信を持つことは僕にはできないので」
「普通に見て、俺よりあいつの方がいいなと」
現在のアーセナルには世界トップクラスの選手たちが各ポジションに集う、ハイレベルな環境がある。その中で劣等感を感じることもあった。
「サイドバックで言えば、昨シーズンはベン・ホワイトや(オレクサンドル・)ジンチェンコ、その前のシーズンでは(キーラン・)ティアニーや(セドリック・)ソアレス。彼ら全員に対してそう思っていましたね。普通にフラットに見て、俺よりあいつの方がいいなと。そう考えちゃうとやっぱり物事はうまくいかないし、自信も戻って来ないんで、メンタル的に良くない方向に行った時期もありました」
レベルの高い場所にいるものだけが肌で感じることのできる現実がある。しかしときに頭をよぎる劣等感から冨安は逃げず、その思いを未来へとつなげようとしている。
「いい意味でも悪い意味でも、矢印が自分にしか向いてないんです。もちろんきつい時期はありますけど、そこで何ができるか。後々考えたときにその時期が良かったと思えるようにやるしかない。そういう経験が あるからこそ、後から見ればより深みのある人間に、より強い選手になれると思う。アーセナルでの日々も、その過程なんだろうなと。今はまだまだ(挫折の)途中だと感じています。でも、最終的に勝てばいい。 僕はそう思っているので」
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