プロ野球PRESSBACK NUMBER
「泣き出した大海をみんなでなだめて…」ロッテ・金子誠コーチが語る「忘れられない8年前の涙」プロ野球記録樹立の岡大海“熱い漢”の原点
text by
梶原紀章(千葉ロッテ広報)Noriaki Kajiwara
photograph byChiba Lotte Marines
posted2024/07/08 11:03
自身が持つ記録を破った岡(右)の快挙にわざと悔しそうな表情を作る金子コーチ
この日の試合はアクシデントから始まった。1番センターでスタメン出場した岡は初回の1打席目で左ひざ付近に自打球が直撃。思わず転倒し、悶絶した。あまりの痛がり方に、ベンチにいる首脳陣は最悪の事態も想定せざるをえなかった。
「記録はもちろん大事。だけど、まずは選手生命というか、無事にプレーをしてもらうことを優先しないといけない。大丈夫かとヒヤヒヤしたね」
共に過ごした1年
患部の状態次第では途中交代という選択を迫られるかもしれない。様々な事を想定し思考を巡らせながら岡のプレーを祈るように見守っていた。
金子コーチと岡はファイターズ時代に1年だけ現役を共にしている。金子コーチが引退する年に岡がチームに加わった。ドラフト3位で入団したルーキーを金子コーチは「大学時代は投手と野手の二刀流。足が速い、肩は強い。身体能力が高い。ポテンシャルの塊という印象」と振り返る。自主トレ先として山梨県笛吹市春日居の地を紹介した縁もある。金子コーチは現役時代、毎年この地から一年をスタートしていた。朝は氷点下を記録する時もあるが、その中を走り込んで身体を作り上げた。厳しい環境で精神面を磨いた。だから将来性のある後輩たちにもその地を紹介した。
コーチとして最も印象に残っているのは、16年シーズンに見た岡の涙だ。
ベンチで泣き出した岡大海
前半戦最終戦となった7月13日のバファローズ戦(京セラドーム)。0対0で迎えた試合は岡のプレーから動いた。6回一死二塁。右翼を守っていた岡は打球を後ろに逸らして三塁打とされてしまい、先制を許したのだ。結果的にこの回は2失点。その直後の打席で代打が送られた。
「そこまで打撃が“無双状態”で頑張っていたから疲れがあったと思う。守備のプレーでちょっとミスをした。だからというわけではないけど、試合の流れで岡の打席で代打を出すことになった。するとベンチで堰を切ったように泣きだした。それをみんなでなだめた」
落ち込む岡は、しかし救われた。8回の攻撃。2死満塁。中田翔内野手(現ドラゴンズ)が右中間へ走者一掃の3点二塁打を放ち試合は勝利した。
「3時間は泣き続けていたかな」
「勝ててホッとした気持ち、頼れる先輩が逆転してくれた嬉しさ、自分への不甲斐なさ、悔しさ。色々な感情が出たのだろうね。さらに倍ぐらいの勢いで泣いていた」
試合後も涙が止まらない。勝利のハイタッチをしながら泣いた。移動のバスがホテルに到着してふと岡の姿を見ると、まだ泣いていた。金子コーチは笑いながら「おまえ長いよ」と声を掛けた。「3時間は泣き続けていたかな」。熱い漢と言われる岡らしいエピソードだ。