ラグビーPRESSBACK NUMBER

ラグビー経験わずか2年の17歳で日本代表候補も…W杯出場経験ナシ “イングランド戦で代表復帰”「消えた天才」山沢拓也(29歳)の魅力とは? 

text by

大友信彦

大友信彦Nobuhiko Otomo

PROFILE

photograph byAsami Enomoto

posted2024/06/24 11:10

ラグビー経験わずか2年の17歳で日本代表候補も…W杯出場経験ナシ “イングランド戦で代表復帰”「消えた天才」山沢拓也(29歳)の魅力とは?<Number Web> photograph by Asami Enomoto

苦戦が続いたイングランド戦でトライを決めた山沢拓也。若かりしころからラグビー界の期待を集めた天才も29歳になった

 ひらめきは両刃の剣でもある。ジェイミー時代に山沢の評価が低かったのは、事前に立てたゲームプランを遂行する能力で他のSO候補の方が高かったためだと言われる。だが、事前のプラン通りにはトライはなかなか生まれない。イングランド戦で山沢があげたトライも、中盤での混戦でうしろに流れかけたボールを日本代表のLOワーナー・ディアンズが長い腕で捕球。敵味方とも想定しないところから走り出したワーナーに瞬時に反応したのが山沢だった。

 試合後のミックスゾーン。メディアが山沢を囲んでいる横を通りかかったエディーHCは「ヤマサワ、いいね」と笑いかけると、こう続けた。

「ずっと23番ね」

 どういう意味ですか? と聞いたときにはエディーは通り過ぎていた。

 真意は「Xファクター」だろう。エディーは初めて日本代表を率いた2012年当時のインタビューでもその必要性を強調していた。コーチングでは教えられない能力。事前に準備した以外のオプションを見つけ、瞬時に遂行する能力。それを発見し、チームに加える勇気がコーチには必要だと。

 一方で、チームの土台を作る時期、Xファクターの位置づけは難しい。命じたことをやりきれと多くの選手に求めながら、一方には裏切りさえ求める矛盾。だがチームの戦術を積み上げ、その情報が相手にも(世界にも)広がっていく過程では、事前の設定に=相手の分析に収まらない、裏をかく、あるいは瞬時の判断で生まれるプレーも必要になるだろう。それを発見し、実行することこそ、エディーが山沢というXファクターに求めるミッションなのだと思う。それには試合の途中でピッチに送り込むインパクトプレーヤー、つまり「23番」が相応しいと。

2027年のW杯は「全然意識していない」

「2027年の次回W杯については?」の問いに山沢は「全然意識していない」と即答した。欲のなさは変わっていない。だがそれも、常に自由にオプションを選択する、たまたま生まれたチャンスに瞬時に反応するXファクターには必要な資質なのかもしれない。

 2024年6月、船出したエディージャパンには、ちょっと異色の、違う発想を持つ、だからこそ頼もしい、唯一無二の乗組員が搭乗している。

関連記事

BACK 1 2 3 4
山沢拓也
エディー・ジョーンズ
ワーナー・ディアンズ
深谷高校
筑波大学
パナソニック ワイルドナイツ
ジェイミー・ジョセフ

ラグビーの前後の記事

ページトップ