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「長谷部誠の半生は日本サッカーの財産」“生意気な後輩”鎌田大地に慕われ、岡田武史から「誠実」と評され…長年追う記者が確信する理由
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byItaru Chiba
posted2024/06/09 17:03
長谷部誠が日本代表とドイツの地でプレーヤーとして残した輝かしい実績。ここからは指導者としてもまた積み上げていくはず
自身との対談の場にサンダルを履いてやって来たときも、フランクフルトの日本人トレーナー黒川孝一への誕生日プレゼントのことを「誕プレ」と略したときも――長谷部は後輩である鎌田をたしなめたことがある。ただ、そんな“生意気な後輩”の言葉だったから、後に脳裏をよぎったのかもしれない。
長谷部はロシアW杯で負ける瞬間まで代表引退について口にするつもりはなかった。そもそも、ベルギー戦で終わるつもりなんて毛頭なかった。
だから、ベルギーに敗れてしばらくすると、チームメイト、ファン……という順に自らの決断について慌ただしく伝えていかなければならなかった。ただ、この話が報道される前に引退の意向を伝えておきたい人たち全てに連絡できたわけではなかった。
岡田武史が「誠実な男だな」と思ったワケ
例えば、自身にキャプテンマークを託してくれた元日本代表監督の岡田武史もその一人だ。
「代表を引退するというニュースがメディアに先に出てしまって、申し訳ありません」というお詫びとともに、代表引退を伝えている。
岡田は当時、テレビ朝日の取材にこう答えていた。
〈そんなのオレに言う必要は全然ないのに……。この男は本当に誠実な男だなと改めて感じました〉
長谷部は、引き際を自ら決めるという美学を、代表引退の際も、今回の現役引退の際にも貫き通した。
ただ……現役引退の発表が、代表引退を表明したときと決定的に異なっていたのは、かつての恩師から盟友にいたるまで、メディアに発表する前に自らの口やテキストで伝えられたところにある。
だから、長谷部が「最後の雄姿を見せたい」と思った人たちも、長谷部の現役最後の姿を「見届けたい」と考えた人たちも、5月18日にフランクフルトのドイチュ・バンク・パルクに詰めかけた。スタンドには、ザッケローニ元代表監督の右腕として活躍した通訳の矢野大輔の姿などもあった――。
好青年、ヤンチャな長谷部さん、どっちが素の姿?
ボルフスブルクに「Sushi Berlin」という、長谷部が行きつけにしていた日本食レストランがある。
当時はスマホも十分に普及していない時代だった。しかも、世界的自動車メーカー・フォルクスワーゲンの城下町であるボルフスブルクは、TOYOTAのある豊田市よりもはるかに田舎風情が漂う。そんな街にある日本食レストランは貴重で、筆者も長谷部に連れて行ってもらったことがあった。
後日、この店を一人で訪れたとき、そこで働く日本人店員からこんなことを聞かれた。