「謝る必要なんてないですよ！ 勝ち上がるためだったら、オレたちはなんでもやります。それに、実際にグループリーグを勝ち抜けたんですよ。オレたち選手は、監督、コーチ、スタッフを誇りに思っています」

　これが着火点となった。その場にいた者たちが次々と口を開いていく。

「これから決勝トーナメントで勝負できるんです。選手としてこんなに幸せなことはないですよ！ だってブラジルW杯では……」

　長友佑都は想いが強すぎるあまり、全てのメッセージを自分の口から伝えることができないほどだった。最終的には選手だけではなく、チームスタッフも口を開いた。

　だから、ミーティングを終えた直後、長谷部は晴れやかな顔で断言した。

「チーム全員が本当に一つになって、次の試合に向けてやっていける雰囲気が出来た。すごく大きなミーティングだったと思います」

ベルギー戦、最後のカウンターで長谷部は…

　みんなが腹を割れる組織となった。そして決勝トーナメント1回戦のベルギー戦前には、みんなの心が一つになった。

　優勝候補ベルギーに勝ち、世間にうずまく批判の声なんて吹き飛ばしてやろうぜ。

©Takuya Sugiyama/JMPA

　ベルギーに押される時間帯は短くなかったが、それでもみんなが前を向いた。原口元気と乾貴士のゴールで、一時は2点もリードを奪った。ただ、ベルギーのパワープレーに押され、同点に追いつかれてしまった。

　そして、後半アディショナルタイム。

　日本の選手たちは最後の力を振りしぼり、本田圭佑のCKに飛び込んだ。ここで勝ち越しゴールを決めるのだという意志を持って。地力の差を感じたからこそ「延長戦になると厳しい」と感じる選手がいたとはいえ、過去には見られないような「勇気」がそこにはあった。

　ただ、これがW杯史に残るカウンターアタックを浴びる原因になってしまった――。

　もちろん、悔しさは残った。何より長谷部は、ボールが本田の足を離れてから失点するまでの14秒を日本の中で誰よりも近くで感じた選手だった。

　相手GKクルトワから始まったカウンター。最後にムニエのクロスがシャドリに渡る直前、ルカクのマークについていた長谷部が伸ばした右足の先端は、ほんの少し、ボールにかすっていた。

©Takuya Sugiyama/JMPA

試合翌日、後悔なくチーム全員に伝えた言葉とは

　ただ、後悔はなかった。

　翌日、スタッフを含めたチーム全員に代表引退を伝えた後の長谷部は穏やかな口ぶりで言葉を紡ぎだした。

【次ページ】　吉田麻也「ずっと彼を見て、学ぶことがたくさんあった」