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水原一平氏は「なぜ60億円超もの借金を背負えた」のか?…角界“野球賭博事件”関与で逮捕の元力士が語る「信用賭け」の恐ろしさ
text by
欠端大林Hiroki Kakehata
photograph byJIJI PRESS
posted2024/04/25 17:29
2010年に発覚した大相撲の野球賭博スキャンダルで謝罪する当時の力士と親方たち。元大関の琴光喜が解雇されるなど大騒動となった
かつて、自ら野球賭博に手を染めていた古市氏だが、現役力士時代(※若貴兄弟や曙と同期の昭和63年春初土俵組)は賭博に一切、興味がなかったという。ところが現役引退後、福岡県で風俗チェーン店を統括する仕事に従事していた時期、プロ野球賭博の胴元と知り合い、「玉」(ギョク=賭け金)を流すようになる。
「ハンデ(※賭博対象チームの実力差を調整する数値)の話を飛ばして言えば、野球賭博とはどちらが勝つかに賭ける丁半バクチです。巨人―阪神戦で、阪神の勝ちに100万円張った場合、負ければゼロ。勝てばテラ銭(※胴元に払う手数料)の1割を引かれた90万円が勝ち分となる。ただし、ツケサゲ(精算)は基本的に週1回、試合のない月曜日で、その間はたとえ負けてカネがなくなった状態でも、胴元が受ける限りは賭け続けられる」
一文無しの状態でも賭けられる「信用賭け」の怖さ
同じギャンブルでも公営競技(競馬、競輪、競艇、オートレース)やパチンコは、「信用」で勝負することはできないため、必ず手元に現金を用意しなければならない。その点、カネがなければ負ける金額にも限度があるが、野球賭博は一文無しの状態でも賭けることができる。
「100万円負けて、あっさり引き下がる人間はいない。100万円勝てば、もう一度賭けない人間はいない。つまり誰も賭けることをやめない。相撲界は狭い世界で、胴元や中継(客から金を集め、胴元に流す人間)は客の信用力を見極めて玉を受ける。
たとえば月々わずかなカネしかもらえない幕下以下の力士と、三役や横綱クラスの力士では、それぞれどのくらいのカネを作ることができるか熟知している。客はその範囲内なら賭けることができるわけです」
では、いかにしてこの違法なギャンブルが角界に蔓延っていったのだろうか?
<後編につづく>