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「落ちぶれているつもりはないので!」巨人・菅野智之が初めて明かす覚悟〈不調、エースの看板、リリーフ転向論…〉完全復活への確かな手応え
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNanae Suzuki
posted2024/03/13 11:04
新シーズンに巻き返しを期す菅野
いまはチーム内にも戸郷翔征を筆頭に山﨑伊織、赤星優志ら若い投手が出てきて、追い立てられているような状況だ。そして巨人のエースは菅野という時代が長く続いたが、ファンがいまの巨人のエースは戸郷だと思っていることも、避けて通れない事実である。
そういう状況を菅野自身はどう考え、それを受け入れるのか。
「もちろん自分なりのプライドもあります。その一方でちょっと重しが取れたな、ちょっと楽になったなあっていう気持ちもどこかにやっぱりあります。いまは戸郷にかかる負担が大きくならないように、と。若い子たちも……伊織だったり赤星だったりいますし、昔の巨人には三本柱と呼ばれた斎藤(雅樹)さん、槙原(寛己)さんと桑田(真澄)さんがいた。そういう関係で長くジャイアンツを支えて欲しいなあって思います」
「志願の登板」の舞台裏
そういう若手選手たちと競いながら、シーズンを通して先発ローテーションを支える。そこが菅野の自覚する現在地である。
ただ不振の昨シーズンでも長年、巨人のエースとして修羅場を潜ってきたこの右腕の“らしさ”を見た場面があった。
8月23日の東京ドームでのヤクルト戦。先発予定だったフォスター・グリフィン投手が、試合前の練習中に打球を頭に受けて登板を回避。この緊急事態に翌24日に先発予定だった菅野が、1日繰り上げてマウンドに立つことを志願したのである。
「赤星(優志投手)が上がってきたタイミングで、僕が投げなかったら多分、彼が投げているんですよ」
菅野は振り返った。
「僕がいけます、と」
ただその赤星も18日のファーム戦で9回を完投して、この日一軍に合流してきたばかりだ。何の準備もなくマウンドに送り出すのは、あまりに酷な状況でもあった。
ただ菅野にもリスクはある。菅野の先発ルーティンでは、基本的には2日前にブルペンで調整して登板に備える。そういう調整面だけでなく、メンタルも含めさまざまな意味でマウンドへの準備が変わってしまう。普通ならあり得ない志願の登板だった。