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人的補償“和田毅パニック”のウラで…広島⇔オリックスでは「超意外な人選」ベテラン記者が「今年カープは“ドラ1”を2人獲得した」と語るワケ
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2024/01/18 06:00
即戦力を獲得する印象が強い人的補償でカープが選んだのは、まさかの入団1年目の快腕だった
憔悴している様子が見えなかった。それどころか、背すじをビシッと伸ばし、真っすぐマウンドを向いて走っていく足取りがキリッとしていた。
致命的とも思える失点を負った直後の、失望感も、脱力感も、そういう「負のムード」が全く漂っていない。取られたものは仕方ない。サッと切り替えて、次の戦いに向かっていく「侍」の凛々しさだけが感じ取れていた。
エースの矜持。予選5試合のほぼ全イニングを一人で投げ抜いて、チームを甲子園に牽引してきた者の誇りがそうさせているのか。
思わず惚れ込んでしまいそうな、毅然とした態度だった。
「マウンドでの立ち姿は大切にしなさい。それは、事あるごとに話していました」
富島高・濱田登監督とは、前任校の宮崎商監督の頃に、本格派左腕・赤川克紀投手(元ヤクルト)の全力投球を受けさせていただいて以来のお付き合いになる。宮崎商は、濱田監督の母校にあたる。
「ただ、最初からそうだったわけじゃなくて、あの甲子園のちょっと前に、こんなことがあったんです」
監督が日高に渡した「ある書籍」
ある試合で投げ負けた日高投手を、濱田監督がどなりつけたという。
「審判のジャッジとか、バックのエラーとか、そういうことに対して明らかにイライラしながら、彼が投げていた。だから、私、全ての部員、全ての保護者の前で、『今日だけは言わせてくれ』と、彼を叱りました。『みんなが甲子園に行きたくて頑張っている中で、自分の感情だけで勝負が左右されたら、バックを守る者、チームメイトはたまらんだろう!』って。『それだけは、勘弁してくれ!』って」
満座の中で、日高投手を叱った後で、濱田監督が彼に手渡した一冊の書籍。『丁寧道』(武田双雲著)。
「私の中でしっくり来た……というか、感じるところがあったものですから。彼も何か感じ取ってくれたらと思いまして」
およそ1カ月後、夏の宮崎大会・準々決勝の日章学園高戦。
同点の9回裏、2死満塁、絶体絶命の大ピンチ。