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兄を見た瞬間「キツさがなくなった」…箱根駅伝7区「兄弟給水」で区間賞、中大・吉居駿恭が告白する“絶望からの復活劇”「箱根は走れないかと…」
text by
加藤秀彬(朝日新聞)Hideaki Kato
photograph byNaoki Kitagawa
posted2024/01/13 06:00
7区の15kmで実現した吉居駿恭(2年)と4年生の兄・大和の「兄弟給水」。 あのシーンと区間賞の走りを見せるまでに何があったのか。駿恭に話を聞いた
ここからは駿恭が一番強いから!
不調だった12月、藤原監督から受け取ったLINEのメッセージに、こんな一文があった。
「兄から給水もらえるのは最後だぞ」
給水の担当者を決める際、迷うことなく兄にお願いした。
大和の顔を見た瞬間は「やっぱり一瞬、キツさがなくなった」と吉居は言う。並走する大和からは「区間賞ペースだぞ。ここからは駿恭が一番強いから」という言葉が聞こえた。最後に、もう一度力をもらえた気がした。
7区まで自分の走りを見に来てくれたチームメートらには、左手のガッツポーズで応えた。
「中野(翔太)さんと本間(颯、1年)が来てくれたので。本当は疲れるから手を挙げたくないとか思ったんですけど、残り6kmなので気合を入れようと。気持ちを入れるために手を挙げましたね」
吉居は7区歴代3位の1時間2分27秒。区間新には届かなかったが、区間賞は狙い通りつかんだ。苦しんだ分、区間賞の一報を聞くと、いつも以上に笑顔がはじけた。
藤原監督「兄に似てロードでの強さが出てきた」
ただ、チームは総合13位。めざしてきた100回大会での優勝には遠く及ばなかった。
大和とは大会後、「力が足りなかったね」と話をした。
もし体調不良がなかったとしても、大会記録を2分17秒更新した青山学院大に勝てたかどうか……。その確信はない。
「体調管理は自分も含めて完璧だったとは言えないし、実力的にも厳しかったとみんなわかっている。来年はこれを良い経験として、ぬかりなくやっていきたい」
復路終了後の大手町。藤原監督は「駿恭には次のエースに育って欲しいと思ってあの区間を託しました。兄に似てロードでの強さが出てきた」と言った。
吉居も、その期待に応えようと早くも来年の箱根を見据えている。
「もちろんシーズンはトラックをメインでやるが、10月からは駅伝に向けてしっかりやりたい。箱根で活躍したいという思いが今はありますね」
次代を担うエースは自身の走りに満足することなく、大手町を後にした。