箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
兄を見た瞬間「キツさがなくなった」…箱根駅伝7区「兄弟給水」で区間賞、中大・吉居駿恭が告白する“絶望からの復活劇”「箱根は走れないかと…」
text by
加藤秀彬(朝日新聞)Hideaki Kato
photograph byNaoki Kitagawa
posted2024/01/13 06:00
7区の15kmで実現した吉居駿恭(2年)と4年生の兄・大和の「兄弟給水」。 あのシーンと区間賞の走りを見せるまでに何があったのか。駿恭に話を聞いた
相次ぐ体調不良者に「朝起きるのが怖くなって…」
12月23日。寮で体調不良者が出た。日を追うごとに、せきや熱の症状を訴える部員が増えていく。27日には、1日で一気に5人が罹患した。
「最初はたいしたことないと思ったんですけど……。毎日、みんな朝起きるのが怖くなっていました。次は自分に熱が出るんじゃないかと」
エントリーメンバー16人のうち14人が体調不良になる緊急事態。チーム内には不穏な空気が流れた。それでも、止まるわけにはいかない。
「優勝をめざそう」
選手の思いは一つだった。
気持ちは切れかけました。でも…
2日の往路当日。選ばれた5人の選手に、熱がある選手はいなかった。
「いける」。そう信じ、吉居はスタートを見守った。
だが、直前の体調不良にはやはりあらがえなかった。1区でいきなり19位とつまずくと、悪い流れは取り戻せない。
昨年はともに区間賞を獲得した2区の兄・大和、3区の中野翔太(4年)は区間下位に終わった。往路を終え、トップの青山学院大とは12分22秒差の13位。この時点で、優勝の夢はほぼついえた。
吉居は「優勝がずっと目標だったので、気持ちは切れかけました」と往路後の心境を振り返る。
「でも、これでは良くない。こんな気持ちでは20kmも走れない。自分が心から達成したい目標を立てよう」
たすきを受け取る時に抱いていた信念
翌3日、7区のスタート地点。
小田原中継所で、吉居は入念にウォーミングアップをしながら決意した。