「ちょっと、意識がかなりあやふやで……。それに実は、自分は片耳しか聞こえなくて。小さい時に、おたふく風邪にかかって、その後遺症で片方しか聞こえないんです。今年は応援の声がすごい大きかったので、監督の声が途切れ途切れで（苦笑）」

「雨が得意」という松山の走りによって4区で単独4位に浮上　©Yuki Suenaga

　でも酒井監督に恩返しできたんじゃないですか、と言葉を投げかけると、はにかんだような笑顔を見せた。

「秋までかなり苦しい状況だったので、監督も色々と考えて、どう選手を導いて行こうか悩まれていたと思いますし、最後に少しだけ恩返しができたのかなと思います」

　東洋大学、復活の4位。酒井監督と松山の言葉からは、チームを束ねることの難しさ、エースという存在の重さ、そしてどんな競技レベルがあっても学生スポーツにおいては信頼関係がいかに大切かが伝わってくる。

ゴールの先に“11区”があるように走らないと…

　再建の足場を固めた指揮官は、すでに101回大会を見据えている。

「復路では9区の吉田（周）と10区の岸本がいい走りをしてくれました。9区のスタート時点で城西大と3分差でしたからまだ届く範囲だろ、と。吉田には前半から突っ込ませたんですけど、それに応えてくれました。攻めた走りをしないと、結果しか残らないんです。攻めて攻めて、結果的に届かなかったのなら未来に繋がる。ゴールの先に“11区”があるように走らないと、本格的な東洋大の再建にはなりませんから」

就任15年目、5月で48歳になる酒井監督　©Yuki Suenaga

　松山の安堵の表情、彼から襷を渡された梅崎らの笑顔、酒井監督の引き締まった表情。東洋大が優勝争いの場に帰ってくる日も近そうだ。