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「シード落ち」危機もまさかの4位、東洋大は箱根駅伝でなぜ蘇った? 選手から不満も、1カ月で再建「酒井監督と松山主将の信頼物語」
text by
涌井健策(Number編集部)Kensaku Wakui
photograph byNanae Suzuki
posted2024/01/06 06:00
3位城西大が見える位置の4位でゴールした東洋大学。10区の岸本遼太郎が区間賞の走りで脅威の追い上げを見せた
「(我々スタッフと)4年生との距離があったのは事実なんですけど、そこを埋めながら、本当の意味で学生間、スタッフ間、そして学生とスタッフの間でチームを一つにしようと話をしました。個々の力をあげることよりも、結束しないと箱根は戦えない、と。コロナで少し崩れていた部分もあったので、そこを再確認しました」
監督と選手の間に見えた「距離」とはどういうことか。エースの松山は「信頼」という言葉を使って、この変化を説明してくれた。
「苦戦が続いた中で、今のままでは勝てない、という認識が全員に広がったのが一番大きかったと思います。そして練習に対する“信頼”も再構築していく必要があるのかな、という声が上がっていたので、そこも話し合いました」
練習への信頼
練習への信頼。シンプルな言葉だが、噛み砕く必要がある。「それはこの練習をしていれば強くなれるという気持ちが選手の間で揺らいでいたということですか?」と問うと、「説明がちょっと難しい話なんですけど」と断りながら言葉を重ねてくれた。
「言ってしまえば、結果が出ていないことへの不満が出てしまった、というか。結果を出す上ではスタッフと選手間の信頼が非常に大切です。これはすごく基本的なことなんですけど、そこから見直していくべき、という意見も出ていました。前回の箱根駅伝で10位になった時からそこ(練習への信頼)が崩れていたという認識はあったので、そこを4年生からしっかり動いて変えていこう、と」
結果が出れば監督やコーチへの選手の信頼度は大きくなり、結果が出なければその逆になってしまう。一度、マイナスのスパイラルに陥ってしまえば明確な結果が出るまでは改善するのは難しいように思える。だが、東洋大の選手とスタッフはそれをやってのけた。
本当に背中で引っ張ってくれました
酒井監督はこう振り返った。
「監督の私が練習メニューを決めていますが、そのメニューを信じないと、いい練習をしていても本番で自信のある走りができない。調整ばかりのメニューでは自信がつかない。あえてどこかで危機感を抱かせることで本当の力にしようとしました。12月に入って、他の調整も進めながら記録会にも参加したことで今までよりは攻めた調整をしました」
選手は強くなること、速くなることに貪欲で、多感な大学生だ。松山ら4年生を中心に自分たちの不満を正直に伝え、そして数多くの名選手を育ててきた酒井監督もそれを心に留め、選手の気持ちに向き合ったのだろう。