「リーチが身長より10センチくらい長いのでそれを生かして、カウンターを狙う戦い方ができるようになれば、もう一段階上の選手になれるのかなと思っています。カウンターを取るまでの試合の組み立てを確立するのが課題ですね。パンチ力を生かせるボクシングをしたいなと思っています」

　陸上では“勝つこと”に強くこだわっていた木村だが、その難しさも嫌というほど味わってきた。だからこそ、簡単に「チャンピオンを目指す」と言うつもりはない。新人ボクサーとして、一歩ずつ階段を上っていくつもりだ。

「プロボクサーとしてはA級に上がることが一つのステータスになると思っているので、目標はA級ボクサーになり、しっかり日本ランカーを目指してやっていきたいと思っています。競技に触れてまだ2年くらいですけれど、技術を高めていって、荒いボクシングではなくて“きれいな動き”ができるボクサーを目指したいですね」

©Shigeki Yamamoto

「ふんぞり返れない自分がいるっていいですよね」

　陸上では“日本代表”というステータスを手にした木村だが、プロボクサー界ではまだ端役。木村は「ふんぞり返れない自分がいるっていいですよね」と、清々しい表情でこう言葉をつなげた。

「キャリア晩年になると、どうしても年齢も上になってきますし、“トップ層にいる選手”という見られ方をしていたけれど、今は自分が最下層にいるような立場なので。プライドがあるとかないとかではなくて、その世界にはそこだけのルールがありますし、僕は陸上時代のプライドをリングに持っていこうとは思いません。アスリートとして、初心に帰った感覚ですね（笑）」

　日本代表という肩書きは、自らの走りでつかんだ「誇り」でもある。だが、その肩書きが外れたとき、木村はプロボクサーとしての確固たる立ち位置を築き、新たな誇りを手にしているだろう。

「僕の存在が、陸上とボクシングそれぞれに興味を持ってもらえるきっかけになるのかなと。実際に試合を観に来た人たちも『生の迫力は全然違うわ』って楽しんでいましたし、陸上ファンがボクシング、ボクシングファンが陸上に関心を持ってくれたら、僕としては一番うれしいですね」

　木村はそう語り、リングへと戻っていった。