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井上尚弥を“ダウン寸前まで追い込んだ”男の証言「気づいたら突然、倒れていて」再戦でまさかの惨敗…ドネアが痛感した“井上の恐ろしさ”

posted2023/12/27 17:03

 
井上尚弥を“ダウン寸前まで追い込んだ”男の証言「気づいたら突然、倒れていて」再戦でまさかの惨敗…ドネアが痛感した“井上の恐ろしさ”<Number Web> photograph by Naoki Fukuda

井上尚弥に“2度敗れた”ノニト・ドネア

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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Naoki Fukuda

 12月26日、スーパーバンタム級4団体王座統一戦で、マーロン・タパレス(フィリピン)に10回1分2秒KO勝ちを収め、2階級での4団体統一に成功した井上尚弥。ずばり、なぜ強いのか。井上に“2度敗れた”ノニト・ドネアが語った――。(初出:Number1053号 2022年6月16日発売/肩書などはすべて当時)

敗戦も歓声…日本ファンが愛したドネア

 センセーショナルなノックアウトの余韻がアリーナを覆っているなか、失意の敗者は勝者を称えたあと、観客に向けて一礼し、静かにリングを降りようとしていた。

 気がつけば大歓声に混じり「ドネア!」と叫ぶ声が一人、また一人と増えていく。花道を引き返す敗者の背中に、いつのまにか大きな拍手とドネア・コールが浴びせられた。偉大なボクサーは日本を愛し、日本のファンも彼を愛していた。

 試合はわずか4分24秒で終わった。かつてラスベガスのリングを沸かせた39歳が容易に受け入れることのできない惨敗だ。試合後も取材に応じた第1戦とは異なり、この日、記者会見は開かれなかった。

再戦直後、控室に井上が訪れて…

 ドネアは2年7カ月ぶりに拳を交えたライバルから何を感じ取ったのか。井上の、そして自らの成長をどう受け止めたのか。それはこの2試合を見届けた者として、どうしても知りたいことだった。本人に取材を申し入れると、3日後に短いながらもコメントを寄せてくれた。

「いかんせん試合時間が短すぎた。井上が強くなっていたかどうかは分からない。彼の力を知る前に試合が終わってしまった。ただ、彼が素晴らしい選手なのは間違いない。戦えて光栄に思う」

 試合直後のドネアはとても記者会見ができるような状態ではなかった。肩を落とし、涙を流し、居合わせたメンバーも言葉を失った。沈黙を破ったのは、ほんの少し前に自らを打ちのめした勝者だった。井上が記者会見を終えて真っ直ぐにドネアの控室を訪れたのだ。3本のベルトをまとめ上げた王者は同行するスタッフを扉の外で待たせ、一人で部屋に入り、宿敵に握手を求めた。

【次ページ】 「ダウン寸前まで追い込んだ」あの日から再戦まで

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