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「トップアスリートは他競技に転身しやすい」は本当? 陸上元日本代表→プロボクサーが感じたリアル「ひとつに特化するからこそ、他のことだと…」 

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荘司結有

荘司結有Yu Shoji

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photograph byShigeki Yamamoto

posted2023/12/26 11:03

「トップアスリートは他競技に転身しやすい」は本当? 陸上元日本代表→プロボクサーが感じたリアル「ひとつに特化するからこそ、他のことだと…」<Number Web> photograph by Shigeki Yamamoto

31歳で元陸上日本代表→プロボクサーに転身した木村淳さん。ここまでプロとして2試合に出場し、KO負けを含め多くの経験を積んだという

「パンチを当てる行為は、陸上でいう接地に近い感覚ですね。足首を固めて、地面の反発を逃さずに受け止めるのは、相手を殴る瞬間に手首や肘を固めてダメージを与えるのと似ている。要は足と手の違いだけなので、わりと早い段階で『こんな感じだな』というのはつかめました」

 その一方で、ボクシング独特の身体の使い方に苦戦した。

「陸上はどちらかといえば膝を固めるけれど、ボクシングって膝を柔らかく使うんですよね。踏み込んだときにたわませるというか、少しゆとりを持たせるような膝の使い方をするんです。あと、パンチを打つときに上半身をひねる回転運動にも慣れなくて。陸上だとどうしてもロスになってしまうので、意図的に動かすのが難しかったですね」

 中でも一番苦労したのは、踏み込み時の手足のタイミングだという。スプリントのフォームの場合、足が接地するタイミングで、手は身体の近くに収まるのが理想的だ。その一方、ボクシングのステップインジャブは、ジャブを打つタイミングで、前足を一歩前に出し、続く後ろ足も一歩前に素早く出す形になる。

 足を前に踏み込むタイミングで手を身体の近くに収めるか、遠くに伸ばすのか。単純な違いのように思えるが、長年染み付いたスプリント動作を変えるのには時間がかかったという。

「やっぱり20年も陸上をやってきたので、どうしてもジャブを打つ時に足が先に出てしまって。手と足のタイミングが全然噛み合わなくて、最初はめちゃくちゃ怒られましたね。ボクシング的には『足が速くない』って(笑)。そのタイミングの違いには戸惑いましたね」

「トップアスリートなら他競技にも転身しやすい」は本当?

 一つの競技でトップクラスに位置できるポテンシャルがあるのなら、その身体能力や感覚を生かして他のスポーツでも通用するのでは……とも考えがちだ。だが、木村は競技を極めたがゆえの、他競技に進入する難しさを感じているという。

「確かにひとつのスポーツで結果を残しているなら、競技を変えても身体の使い方とか分かるやろって言われますけれど、いや僕は違うと思っていて。ひとつのことに特化するからこそ、他のことをやるとズレてしまうと思うんですよ。

 たとえば、陸上だと背筋を伸ばして少し胸を開くような姿勢が一般的ですが、ボクシングの場合は巻き肩というか、みぞおちを奥に入れるような形で構えるんです。それって陸上でいえば『お腹が抜けている』といわれる姿勢なんですよ。分かっていても、元々の身体の使い方ってなかなか抜けないものですし、その競技ならではの動きもあるので『直結』はしないなと思っていますね」

【次ページ】 プロ2戦目で味わった「減量苦」

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