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「トップアスリートは他競技に転身しやすい」は本当? 陸上元日本代表→プロボクサーが感じたリアル「ひとつに特化するからこそ、他のことだと…」
posted2023/12/26 11:03
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph by
Shigeki Yamamoto
マイルリレーの日本代表として活躍したのち、プロボクサーへの転身を遂げた木村淳(32歳)。2020年に現役引退し、関西の名門ジム・大阪帝拳の門を叩き、昨年秋にプロテストに合格した。
今夏にデビューを果たした木村だが、長年染み付いたスプリントの動きがなかなか抜けず、ボクシング独特のタイミングやフォームに馴染むのに苦労もあるという。競技を極めたがゆえの転向の難しさ、そして「死ぬかと思った」と語る過酷な減量の裏側について聞いた。(Number Webノンフィクション全2回の第2回/前編はこちらへ)
プロボクサーとしての初戦は「4RでKO負け」
今年7月、アジア陸上競技選手権が開催されている裏側で、木村は大阪府堺市で行われた西日本新人王予選のリングに立っていた。観客席には、金丸祐三や舘野哲也ら元五輪代表の姿もあった。
階級は58.9キロ以下のスーパーフェザー級。U-15全国大会優勝経験のある19歳の小松直人(森岡)を相手に3Rでダウンを奪ったものの、4Rで強烈なパンチを浴びてダウン。TKO負けを喫した。
「試合が始まるまでは緊張していましたけれど、いざリングに上がったときには吹っ切れていて。しっかり練習したというバックボーンがあれば、落ち着いて試合に臨めるというのは、陸上もボクシングもあまり変わらないなって。派手に負けてしまいましたが、ボクシング関係者の方たちに『本当にいい試合やった』って言ってもらえて、プロとして面白い試合をするという役目は果たせたのかなと思っていますね」
2018年のアジア大会男子・男女混合4×400mリレー代表の木村は2020年10月に現役引退。間もなく大阪帝拳に入門し、2022年11月にプロテストに合格した。元陸上選手ならではだが、ボクシングのトレーニングを、陸上のメニューに脳内変換しながら、その意図や目的を理解してきたそうだ。
たとえば、シャドーは「流し」だという。
「流しって『自分の身体がどういう状況なのか』を把握する意味合いもあるので、そこでしっかり目的意識を持たないと、メインも崩れてしまうんですよね。『ただのアップ』と捉えている人もいますが、そこをおろそかにする選手は伸びないと思っていて。シャドーも同じで、そこでしっかり自分の感覚を把握しないと、その後のバッグやミットの練習でもテーマが決まらないんです」
陸上とボクシング。身一つで戦う以外に、何のつながりもないように思える両者だが、木村は陸上で培った感覚が生きている面もあるという。