18シーズンにわたって川崎でプレーしてきたバンディエラ・中村憲剛の現役ラストゲームだったのである。中村が試合に出ることはなかったが、試合後のロッカールームで小林は号泣した。中村の存在なしにJリーグ屈指のストライカーにはなれなかったし、自分のサッカー人生を彩ってくれた恩人だからだ。中村の現役最後のアシストで自分がゴールを決めたことは一生忘れない。あのラストゲームで、本人からもらったユニフォームは大切な宝物となっている。

「試合後のロッカーで憲剛さんと抱き合って……僕がめちゃくちゃ泣いてましたね。『最後の試合のユニフォームをください』とずっと言っていたので、そこにサインしてもらって、家に大事に取ってあります」

中村憲剛と小林悠（2019年）。ともに川崎フロンターレというクラブを象徴する存在だ　©Hiroki Watanabe/Getty Images

「相手の優勝する姿を見るほど悔しいことはない」

　12月9日、川崎フロンターレは天皇杯決勝の舞台を戦う。

　これまで小林は、カップ戦のファイナルを4度経験している。2017年と2019年のルヴァンカップ決勝、そして2016年度と2020年度の天皇杯決勝で、2勝2敗という結果だ。優勝して表彰台で歓喜した景色だけではなく、負けて表彰台を見上げるときの視界が歪むような景色もよく知っている。

「決勝戦は勝つか負けるかの差がありすぎますよね。決勝まで勝ち進んで2位なのに、敗者の感覚がすごいじゃないですか。相手の優勝する姿を見なきゃいけないって、あんな悔しい思いはないですよ」

　だから、勝たないといけない。

　相手は最終節で残留を決めた柏レイソルだが、ファイナルにはリーグ戦の順位も下馬評も関係ない。完全なる一発勝負だからだ。

　大一番になればなるほど、チームのメンタリティーが問われる。どういった雰囲気で試合に入っていくのか。小林は自身の担う役割も含め、勝つためのチームの「気持ちの作り方」に自信をのぞかせる。

「ベテランとしての自分の振舞いだったり、声がけだったりも重要になる。このチームは（レアンドロ・）ダミアンや（チョン・）ソンリョンなど、ベテランがすごく声を出してくれている。自分もそこに乗っかっていろいろと言いますけど、経験のある選手が声を出すことで若い選手たちも目の色が変わったり、グッと試合に入っていく感じがあるんです」

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