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「梅野隆太郎第6戦ベンチ入り」のナゾを追う…阪神・岡田彰布監督が描いた“幻の秘策”とは?「スパイク、準備しといてくれよ」《日本シリーズ秘話》
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/11/09 17:02
第6戦から「まさかの」ベンチ入りとなった梅野隆太郎捕手。岡田彰布監督の狙いはどこにあったのだろうか?
梅野は8月13日のヤクルト戦で死球を受けて左尺骨を骨折した。必死にケアしたが、回復は遅れていた。
キャッチボールはできるが、スタンドティー打撃でも痛みが出たため、バットを握っていなかった。まだ満足にプレーできる状況ではないことを知りながら、岡田は梅野を日本シリーズ出場選手資格に登録した。
左手首のことを考えれば、40人枠に入ることも、ましてや、試合を戦うベンチに入ることなど、日本シリーズ前は想像もしなかった。だが、梅野は次第にある予感にとらわれるようになった。
梅野が感じていた「シリーズ出場の可能性」
第1戦の試合前、岡田が梅野に声を掛けていたのだ。
「足はどうや? 走れるやろ?」
梅野は捕手でありながら、機敏に動ける。19年に14盗塁するなど、走るセンスもある。そういう長所に加え、日本シリーズの張りつめた雰囲気をベンチで味わうだけでも、来年以降の糧になる。今季開幕戦の先発マスクを梅野に託し、坂本誠志郎とともに主戦捕手として起用し続けた。
第6戦は代走要員の熊谷敬宥や島田海吏がメンバーを外れ、第7戦は熊谷がベンチ外だった。それでも、梅野をメンバーに加えたのは、戦いのパーツとして見ていたからである。
「戦力を失うな」
これは前回指揮を執った、リーグ優勝した2005年の頃の岡田の口癖である。特に投手の継投でこの言葉をよく用いた。ある投手がピンチで打ち込まれた後、さらにリリーフを投入し、火に油を注ぐ形になるのをもっとも嫌う。
傷つくのはひとりだけでいい。シーズンの長丁場を考えれば、ダメージを受ける選手が少ないほどいいからである。