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バロンドール受賞者はメッシ…最高機密が漏れた真相と、選考基準通りなら本命のエムバペが受賞を逃した理由とは
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byGetty Images
posted2023/10/30 11:06
すでに史上最多7回の受賞を果たしているメッシ。2021年の前回受賞時には、目の前にトロフィーをズラリ並べてスピーチした
エムバペも、存在感を存分にアピールした。1966年のジェフ・ハースト以来となる決勝戦でのハットトリックを成し遂げ、大会得点王にも輝いた。だが彼は勝者ではなかった。
これでメッシのバロンドールが決まったと思った。ところが大会終了後にインタビューしたフィリップ・トルシエは、本命はメッシではなくエムバペだという。個のパフォーマンスでエムバペは際立っており、シーズンを通してもメッシを上回っているというのがその理由だった。
パスカル・フェレ(前FF誌編集長、現パリ・サンジェルマンメディアオフィサー)からも同じことを言われた。
「今季、考慮すべき大会は3つあった。各国リーグ戦とチャンピオンズリーグ(CL)、それにW杯だ。W杯でのパフォーマンスは互角。CLはどちらも駄目だった。しかしリーグではエムバペが際立っていた」と。
実際、エムバペは、アーリング・ハーランド(61得点)に次ぐ54ゴール(すべての大会を含む)をこのシーズンに挙げ、リーグでの活躍も際立っていた。
バロンドールの選考基準
バロンドールには3つの選考基準がある。2022年に改訂されたそれは、第1の基準が個のパフォーマンスと決定的かつ印象的な個性で、第2がコレクティブなパフォーマンス(タイトルの獲得)、第3が人格とフェアプレイである。改定前との違いは、同列で並んでいた個のパフォーマンスとコレクティブなパフォーマンスに優先順位がつけられたことである。
タイトル獲得を個のパフォーマンスと同列視するならば、メッシの受賞で決まり。しかし個のパフォーマンスを優先したときには、エムバペもメッシに決して劣ってはいない。フランス人の身びいきばかりとはいえない、十分に考慮すべき点であるように思われた。
それでもメッシに決まったのは、投票した世界のジャーナリストたちが、W杯でのメッシのパフォーマンスと、ついに世界一のタイトルを祖国にもたらした彼の大きな物語の完結を高く評価したからだろう。メッシの過去の受賞のすべてが妥当であったとは思わない筆者も、誰に投票したかはさておきそのことには異議はない。
結果はわかっているとはいえ、今は発表の瞬間を静かに待ちたい。