ワインとシエスタとフットボールとBACK NUMBER
バロンドール受賞者はメッシ…最高機密が漏れた真相と、選考基準通りなら本命のエムバペが受賞を逃した理由とは
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byGetty Images
posted2023/10/30 11:06
すでに史上最多7回の受賞を果たしているメッシ。2021年の前回受賞時には、目の前にトロフィーをズラリ並べてスピーチした
だが、その後、情報管理は徹底された。編集部内にバロンドール専用の部屋が設けられ、専任の編集部員以外は誰も入れない。投票がオンラインでおこなわれるようになってからは、結果を知るのはメールを配信した庶務と集計した編集部員、それに編集長のみで、他の編集部員も発表当日まで受賞者を知らされない。発表直後に発売されるFF誌でのインタビューも、担当する記者とカメラマンの動きは編集部内でも秘密にされた。
それでも情報が漏れたのは、インターネットでだれもが情報を発信できるようになったからだった。FF誌の記者たちを受賞者の周辺で見かけたものが、何気なくその事実を呟く。網を張っていた地元のメディアが、記者達の姿を捉えてネットで受賞のニュースを配信する。今回も同様で、発信源はメッシの友人のインスタグラムだった。10月13日、その友人は、FF誌の記者とカメラマンがマイアミのメッシの元を訪れたというメッセージをアップし、幾つかのメディアがメッシの受賞を伝えた。ただし、元のメッセージはすぐに削除され、後追いするメディアもなかったのは、どこも裏を取れなかったからだろう。
では本当にメッシなのか?
筆者はFF誌の現編集長と前編集長にメールを送り、真偽を問い合わせた。彼らからの返信はなかったが、別の信頼できる筋から、今年の受賞はメッシで間違いないとの確証を得たのだった。
エムバペが受賞しなかった理由
カタールW杯の決勝がアルゼンチン対フランスになったときから、世界一をめぐる戦いはもうひとつの意味を持つようになった。リオネル・メッシ対キリアン・エムバペ。ふたりがともにチームの中心で、彼らの力を最大限に生かすシステムを採用していた点で、役割もパフォーマンスも似通っていた。チーム全体をオーガナイズするメッシと、卓越した得点力で結果をもたらすエムバペ。ふたりのどちらか──勝者がバロンドールも手にする。世界一をかけての戦いは、バロンドールを巡っての戦いでもあった。
決勝が近づくにつれ、カタールはアルゼンチンとメッシの色に徐々に染まっていった。メッシが悲願の世界一を手にすることこそが、誰もが望む大会のハッピーエンドでもあるという合意が、現地ではできつつあった。主役はメッシであって、大会2連覇を目指すフランスとエムバペは、アルゼンチン優勝のわき役に過ぎない。そんな空気を、筆者は肌で感じた。
アルゼンチンが2対0とリードし、フランスが同点に追いついた試合は延長に入っても決着がつかず(3対3)、PK戦にもつれ込んだ。結果は4対2でアルゼンチンの勝利。メッシは大会のMVPに選ばれた。